ウサミ

ゲット・アウトのウサミのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.3
「出て行け!」


黒人の彼氏が白人の彼女の家に遊びに行く。「肌の色の違いを受け入れてくれるだろうか?」
主人公のクリスが抱えるこの不安が、映画そのものが人種差別をテーマとした映画である事を匂わせます。
スタートから観客に不穏感や居心地の悪さを漂わせ、スリラーとして、サスペンスとして楽しませつつも、奥深いレイヤーでの問題意識に観客をスムーズに運ぶ脚本が見事。
少しでも誤ればB級映画やチープなホラー映画に傾きそうなところを、適度な恐怖感とゾッとするメタファー、人々の醜く目を背けたい部分に視点を持っていき緊張感を保ち続けるバランス感覚が見事。
あくまでメッセージの押し付けや思想の映画に舵を取らず、ドキドキするホラー要素と謎解きの快感を織り交ぜて、ちゃんとエンタメ映画としても申し分ない魅力を持っている。
深読み派も、そうで無い派も、文句無く楽しめるだろう作品。素晴らしい!!

冒頭の黒人誘拐のシーンからあっけらかんと明るい場面を連続させる奇妙さ。面白いサスペンスは高低差のギャップで目を引かれることが多いです。

映画に対する興味が持続したまま、ある種の爽快感を持って映画は終わる。狂気の加速が暴力的な爆発を起こすカタルシス。こちらも何とも、人間の残忍さを感じました。

黒人の監督が黒人を主人公に人種差別に切り込んだホラーを描く、しかし先述のように思想に傾かずに、あくまで人間の普遍的な負の感情を思い起こす作品となっていて、被害者意識が生む卑屈な作品ではなかったです。

きっと人間誰しもが深層的に自分は他人よりも高くありたいという意識を持っていて、それを隠そうとしているつもりで思い切り表面に出してしまうのが大変愚かしく醜い。作中の白人パーティの様相は、とても不愉快で居心地が悪いが、もっとも興味深いシーンでした。

そもそも、〇〇差別に関する思想は、時に根本的な差別意識がそもそも取っ払われていないのでは?という違和感を感じることがあります。黒人差別は(日本人の僕には馴染み深く無いけども)社会の非効率だし、奴隷制度は非人道的な負の遺産だろう。しかし、そう言った差別は、白人が黒人を褒め称える、その「上から目線」が生むものであるに違いない。
これは白人だ黒人だ、という話ではなく、社会のあらゆる差別やレッテル問題に帰依する。「ポリコレ」という言葉がステータスやアクセサリーのように扱われるのであれば、それはおかしい。もしかすればジョーダンピールは、差別問題に根差す違和感、問題意識のズレを感じていたのではないか?ブラックユーモアを交えて、痛烈に、誤解を恐れず強い言葉で言えば「ポリコレ野郎こそ一番の差別主義者だ」と皮肉っているようにも思えました。

人間の根本に根差す差別意識、その存在に気付かないことが最も愚かだと、この作品は教えてくれます。
黒人監督、そしてコメディ出身監督だからこそできる、上質の映像体験でした。
ウサミ

ウサミ