TAK44マグナム

ゲット・アウトのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.9
「ここ」から出てゆけ!


これはすごい。
傑作です!
いわゆるひとつの「田舎ホラー」なのですが、冒頭の黒人青年拉致場面がなければ、途中までは一風変わった恋愛ものにしか見えないかもしれません。

主人公は黒人のクリス。その彼女は白人のローズ(女優さんが美人!しかもそれが物語的に重要ときてる)。
週末を彼女の実家で過ごすことになり、そうなると当然、自分が黒人であることで受け入れられるのかどうかが気になるじゃありませんか。
普通に白人同士だって彼女の父親に 初めて会うなんて緊張するでしょうし。
で、実際に行ってみると拍子抜けするぐらい気に入ってもらえるんですね。メチャ歓待を受けます。
でも、どこか居心地の悪さを感じます。
友人たちを招いたパーティの席で、更に強く不穏な空気を感じるようなったクリスは家に帰ると言い出すのですが・・・

興味深いのは、クリスが「何か変だな」と違和感を感じる一番の理由が「黒人が黒人らしくないという」、その点についてです。
使用人の黒人やパーティに出席していた黒人に対して、強烈な違和感を持つんですね。
黒人流の挨拶は通じないし、プライドも感じられない。
「あいつらは本当に黒人なのか?」

もちろんそれだけでなく他にも引っかかるものがあり、クリスを不安にさせます。
とにかく変だ。逃げ出したい。
そんな思いが頂点に達したとき、信じられない恐怖が襲いかかってくるのです!

これは監督自らの皮膚感覚からくる、アメリカ社会の問題点をえぐる映画なのでしょうね。
本当の人種差別とは、人権が云々とかそういう事ばかりでない。
オバマを支持するような「一見すると反差別主義者」の連中でさえ知らぬうちに人種間で線引きをしているんだという訴えをホラー映画として落とし込んでいます。
相手が黒人だからといって「出てゆけ!」と言いはしませんが、心の中では人間として認めているのか、どうか?
単純な人種差別映画と思って観ると、そんなレベルではない差別の恐ろしさを味わうことになるでしょう。

(「ステップフォード・ワイフ」や「盗まれた街」「招かねざる客」に触発された)緻密なシナリオは、伏線をはりまくってキレイに回収、そのさりげなさ具合が最高です。
よほどの練度でないと、ここまで不気味で恐ろしい裏側を表層面だけを見せて隠せないと思います。
ありえる、ありえないはこの際置いておいて(多少、SFっぽくもあるので)、例えば鹿を轢いてしまったクリスたちに警官が身分証明書の提示を促す場面などは本当によく出来たミステリー小説を読んでいるような気分にさせてくれます。
この、どうでもよさげな場面に、大きなヒントが隠されているとは中々見抜けないのではないでしょうか?
かくいう自分も解説サイトで知って、思わず膝を打ちました。
どうして証明書の提示をローズが拒むのか?
警官の人種差別問題がとりだたされる昨今だからこそ、この場面のミスリードの効き目が半端ない。
他にもはられた伏線は数知れずですが、どれもこれもちゃんと意味があり、無駄がないのが凄い。
加えてテンポも良いのでサクサクと観れるのも魅力的です。

ホラー描写が本格的に始まるのはかなり後半からですが、少しずつ侵食してゆくような「なにか」にクリスともども振り回されているうちにドカン!と始まるので、キチガイの考えることはやっぱり狂ってるなあと心底震え上がることになります。

かつてヒトラーはユダヤ人を徹底的に弾圧しましたが、それはユダヤ人の優秀さを理解していたから故でした。
弾圧から一周回ると、今度は何を始めるのか?
そう、弾圧のその先を描いた映画、それが「ゲットアウト」なのです。


劇場(横浜ニューテアトル)にて