10円様

ゲット・アウトの10円様のレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
3.9
昨年度の映画賞に彗星のごとく現れアカデミー賞本戦にも台風の目として入り込み、名だたる候補作品を押しのけ脚本賞を受賞した話題作。全米での劇場公開は2017年2月という事を考えれば、賞レースでの席巻は注目の的であり、日本では10月にひっそりと公開される形になりましたが、人気の根強さはソフト化されてより加速したという印象です。

閉塞された土地で孤立し、その環境や文化に覚えた違和感がやがて恐怖へと変わって行く。というスタイルは「ウィッカーマン」や「ステップフォードワイフ」等の名作、佳作が思い浮かびます。根本的に異なる価値観は容易く人間を狂気させるというような今やステレオタイプとも教科書的ともとれるサスペンスホラー。なプロットの映画。しかしながら見方を変えると20年前ならエディマーフィーあたりが大はしゃぎしながら右往左往するドタバタコメディ映画。とても単純明解でいて安心した起承転結を予想できるような映画ともとれました。

本作は黒人人種差別問題がテーマとしてある。というのは誰しも感じる事だし、おそらく正解であると思います。ただこのアイロニーで満ちたアプローチの仕方は、コメディアンであり黒人のジョーダンピール監督のある種怒りともとれる姿勢がうかがえます。そして白人が搾取してきた歴史をこれでもかとおちょくる。しかもサスペンスの中で。
必ずしも監督にそのような意図があったとは限りませんが、本作の製作中にアメリカの大統領が代わりました。大統領の人種差別的発言などへ対しての代弁として、この映画が支持されたのかもしれません。要はこの映画は時には良質のサスペンス、時には体制へ風刺。時にはシリアスなコメディと、時にはエンターテイメントと情勢によって顔色が変わる類の映画なのかもしれません。だとしたらコメディアンジョーダンピール監督の術中にまんまとはめられたというところです。

理不尽な力を使い迫り来る多数の白人に対して圧倒的に弱い立場である一人の黒人。どことなく「ファニーゲーム」や「バイオレンスレイク」などの胸を掻き毟りたくなる後味の悪さの結末を予想してしまいましたが、そこはハリウッドのお約束をきちんと守ってくれて、安心したし好感が持てました。
主人公クリスを演じたダニエルカルーヤの表情の変化もとても見事だったし、上から目線役として妙に貫禄のついたキャサリンキーナーもグッド。しかし本作を観た人誰もが感じると思いますが、使用人役のベティガブリエルという人が圧巻です。ホラーにもコメディにもなれる要素がこの映画にある。という理由はこの人の存在感があってこそではないでしょうか。
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