むーしゅ

ゲット・アウトのむーしゅのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
3.6
 アメリカのコメディ番組"MADtv"の元レギュラーでコメディアンのJordan Peeleが初めて映画監督に挑戦した作品。てっきりコメディもので来ると思っていたのもあって、ここまでホラー要素を強めた作品になっているとは思いませんでした。

 ニューヨークに住んでいる写真家で黒人のクリスは、週末に白人の恋人ローズの実家へ挨拶をしに行くことになる。早速居心地が悪くなるほどの歓迎を受けるクリスだが、黒人の使用人からの視線に次第に違和感を感じ始める。また翌日ローズの祖父を讃えるパーティが開催され、白人の友人たちが集まると聞かされるのだが・・・という話。Get out!(出ていけ!)と言われる話と見せかけて、実は言う話という意外性、これは脚本勝ちの映画ですね。詳しいことはネタバレになるので言えませんが最後までいくと、そういうことね、となる映画。ただ別に仕掛けや秘密があるわけではないのであくまで、そういうことね、となる映画です。

 では脚本がどう素晴らしかったかというと、社会派サスペンスとサイコスリラーの混ぜ方にグッと来ました。普通こういった白黒対比のポスターを見ると、それだけで勝手に社会派サスペンスだと決めつけてMorgan Freemanさん出番ですよ、という感じがしてしまいますが、そんな直球には進まないストーリー。そのため前半からちりばめられているホラーノリに多少違和感を感じてしまいます。しかし実はその辺りはあくまで伏線、知らず知らずのうちに舵が切られはじめているというミックス具合で、黒人差別をテーマとしたいつもの社会派サスペンスやドラマとは一線を画しています。しかもこれを作ったのは白人ではなく黒人なんですよね。黒人だからこそ人種差別の映画は直球で来ると思っていましたが、当人は思ったより変化球を好むという例かもしれません。部外者が直球で勝負した結果、一部から感動ポルノと批判されている「ワンダー 君は太陽」の例を考えると、最近は変化球の方がかえって万人受けを狙えるのかもしれないですね。

 しかし正直それ以上でもそれ以下でもない映画というか、これだけの脚本のわりにはいまいち飛躍しなかった映画だなと感じました。期待値が高かったということもありますが。先ほど違和感と書きましたが、前半から匂わせるホラー要素はやり過ぎ度が高くB級ホラー感がすごいです。鹿を車で轢いてしまったことは、警察官の黒人差別や後半の剥製とのつながり等うまく機能していますが、お屋敷についてからはほとんどがやり過ぎ。不気味さは出せていますが、この段階ではホラー映画の中にいることを知らないので、怖いというよりはよく分からないです。最後まで見終えても、前半部のホラー要素に関してはいくらなんでもやり方ってものがあるでしょ?という思いは変わらずでした。ある意味Jordan Peele監督なりのコメディだと思ったほうがよいのかもしれないですね、冗談ですが。シチュエーションが恐ろしいだけに、白人社会での黒人が感じる違和感要素をもっといれた方がよっぽどじわじわ来る恐怖が表現できた気がします。そう考えると「シャイニング」のじわじわ感って偉大ですね。

 あとは好みの問題ですかね。個人的にはもう少し最後に現実味を持たせてほしかったです。ホラー映画でよくある呪いは続く…的ラストではなく、スパッと終わらせていることで漸く社会派サスペンスへ戻ってきた訳ですが、あのタイミングでは後の祭り感が。面白かったのだけど、本でも十分というか、ひょっとしたら本で読んだ方が怖いかもしれません。ホラーとして、サスペンスとしてであれば他にもっと勧めたい作品があるので、この映画を人に勧める時というのは、「人種差別という社会問題をサイコスリラーへ昇華させた珍しい作品があってね…」という前置きと共にという感じですかね。
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