三上新吾

ゲット・アウトの三上新吾のネタバレレビュー・内容・結末

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

娘家族に迎えられる黒人の若者と庭の管理をさせられている黒人。
社会通念を逆手にとってうまくミスリードへと導くモンタージュ法。

一般化とは、我々が日常的に陥ってしまう認知のゆがみの中の一つだ。
ある日、近所の犬に足を噛まれた男がいた。それからというもの、その男は犬嫌いになってしまった。よくある話だし、自分の身を守るための当然の反応のように思われる。
しかし、犬を人種や国籍に置き換えて考えてみてほしい。果たしてそれは、いとも容易く差別主義や優生思想につながってしまう。

たしかに物事には属性というものがある。個体ごとに違いを見極めるより、レッテルを貼って判断する方が処理速度という点においては合理的だ。

「理性」という言葉はふた通りの意味を含んでいる。「意識」という意味合いと、「良心・倫理観」という意味合いだ。二つの意味は似ているようでそうではない。「理性を持つ人間」が後者の意味における理性を持ち得るとは必ずしも限らない。「意識」だけを持った人間は、放っておくと驚くほど簡単に間違った方向へと進んで行ってしまう。

日本は島国でほとんど単一民族で構成されており、国内にいる多数派でいる限り人種を以て被差別者になることは滅多にない。登場した白人たちの「逆差別」ともいうべき言動の過ちに気づかない人もいるかもしれない(後にそれはミスリードであることがわかるのだが…)。

劇中にたびたび登場する鹿は、白人たちの「白人であることのコンプレックス」の暗喩であろう。ローズの父親は弱者としての鹿に強い嫌悪感を示す。ローズの部屋に置かれたかわいいライオンのぬいぐるみは、本来強者である(と劇中でされている)黒人のクリスが弱体化されることの暗示か。地下室で無防備に目覚めたクリスが目にしたのは雄々しい鹿のハンティング・トロフィーだった。ローズの父は最後に自らの劣等感によって命を落とす。

そのほかにも白と黒の対比や所々に散りばめられたメタファーなど、緻密に練られた脚本がこの映画の魅力だ。

身体を乗っ取る手段には少々強引さがあったものの、アレゴリカルな話として消化できる。

序盤に提示された謎とミスリードが徐々に開示され覆されていく過程によって、社会的テーマをエンタテインメントに見事に昇華していた。
三上新吾

三上新吾