コミヤ

デヴィッド・リンチ:アートライフのコミヤのレビュー・感想・評価

3.6
18本 劇場7本目

自分の作品について多くを語らない事で知られるデビッド・リンチのドキュメンタリーという貴重な映画。孫ほど歳の離れた末娘の誕生をきっかけに自分の過去についての記録を残すことに快諾したらしい。監督は以前にも彼を追った「リンチ1」、「リンチ2」というドキュメンタリーを撮ってる。

自宅で愛娘を隣に座らせ映画以外の芸術活動をしているリンチを映した映像と写真や当時の作品と共に振り返る彼の過去についてが交互に映し出されるという構成。

同じカルト映画の巨匠で現在も精力的に活動を続けるホドロフスキーを追ったドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」と比較すると、淡々としていて作品単体としての面白さで言ったら遥かに劣ってる。あっちは一つの物語として完結しているし、過去作の映像を出したり、絵コンテをアニメーションにするなど視覚的にもかなり面白い。一方で本作はパンフによるとリンチ作品同様映画内に謎を残して鑑賞者に解釈を委ねるという作りになっている。また過去作の映像を出すということを極力避けてそれに関するヒントをさりげなく出すことで、鑑賞者にその映像を想像させようとしていたらしい。そう言われてみると「ロストハイウェイ」や「ブルーベルベット」っぽいところがあったかも。

こんな感じのスタイルの映画なので他の方のレビューでも書いてあるように正直物凄く眠かった。でもこれを見ればデビッド・リンチの全てが分かると言うわけでは無いけど彼の才能や発想の根源のほんの一部を知ることができる。

どんな発想でもその源は過去の自分の体験である。彼の映画によく出てくるようなある時点で別人のようになってしまう登場人物は人が環境において全く別人になるという経験から、また異世界の住人のような奇妙な登場人物なども全て彼の過去の体験から着想を得ているらしい。

また基本となる生活、友人や家族との生活、そして芸術の生活=アートライフというものを完全に分けて生活しているという話も興味深かった。

何より印象的だったのが長編デビュー作の「イレイザーヘッド」を自由に製作していた頃が一番幸せだったと少し寂しそうに言う場面。映画製作において段々と自分の好きなようにできなくなってしまったから監督を引退してしまったのではと思った。それでも今も芸術家として活動を続けている彼の姿は幸せそのものだった。

「イレイザーヘッド」や他の作品を普通の人が見たら彼のことを「病んでそう」とか「可哀想」って思うかもしれないけど、芸術を通して自分の好きな事を表現する彼は何より幸福なのだと思う。

監督の毛量にも驚かされた。
コミヤ

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