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デヴィッド・リンチ:アートライフのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.0
 大柄な身体で椅子に座り、煙草を燻らしながら、ゆっくりと瞑想するように深く息を吐く。デヴィッド・リンチの眼光はファインダーを覗いている時以外も、いつも鋭い。一心不乱にキャンバスに向かう時も、奥行きを生かした絵画の立体的な造形に注意を払う時も、父親の思い出を感じさせる木工に挑戦する時も、打ち付けた釘の角度が気に入らない時も、その聡明な目は世界の深淵を鋭く見つめている。親しい友人・知人、ましてや家族にも立ち入らせない彼の「アートライフ」の領域にカメラはそっと歩み寄り、ある一定の距離を撮りながら稀代の天才デヴィッド・リンチを見つめる。唯一例外的に彼のテリトリーに入ることが許されたのは、4番目の妻との子供である末娘のルラである。

 マスコミ嫌いを公言するデヴィッド・リンチとの対話が許されたのは、2007年の『リンチ1』で対話の経験のあるジョン・グエンだった。彼はドキュメンタリー作家として、対象をクローズ・アップで収めるような紋切り型のドキュメンタリーを嫌い、自然体の鬼才の姿をカメラに収めようとする。結果としてカメラの存在をほとんど感じさせない25時間の対話は、これまでのリンチのドキュメンタリーとは一線を画す。ラスト付近に向かうに連れ、リンチの現在の映画業界への諦念や過去を見つめる目が一際印象深い。未来への諦めと過去への憧憬の念が、リンチをして『ツイン・ピークス/THE RETURN』へと向かわせる。
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