映画監督になるまでの幼少期から青年期を回想したドキュメンタリー。
ここまで絵というか、アートをバックボーンに育っていたのを知らなくてとても面白かった。
思い出として語られる体験は主に恐怖や鬱屈とした気持ちがメインで、負の感情への焦点が特徴的だった。
一方で両親や家族に対する思い出はとても暖かなもので、恐怖とは全く対照的な環境で育ったことが面白かった。語られていないだけかもしれないけど。
家族、友達、アートをそれぞれ分離した世界として捉えて、それぞれの世界の人々を会わせないようにしてた話も印象的。
描かれた、今なお描いている絵画はベーコンの影響が大きいと思った。
絵の具に砂とかホコリを混ぜてザラついたテクスチャーにしたり、綿を混ぜてモワッとさせたりするベーコンと似たような手法で制作していた。
その独特のテクスチャーを主に手でキャンバスに塗ることで、偶然現れる生々しい凹凸や模様の中に自分の抱えている恐怖を投影しながら実験的にいまでも制作していて、恐怖のようなものを永遠のテーマとして抱えていることが見えた。
自分の制作物への自慢や誇らしさみたいなものが全然感じられなくて、美術学校に進学できたことも自分のアーティストとしての力量ではなく、友人の手紙による力添えでしかないように語っていた。
個人的に感じるガチアーティストによくみられる傾向。
部屋にひきこもること、狭い世界にとどまることによってつくられる大きな世界。
自分でコントロールできる領域が重要で、コントロールできるはずの世界で生まれるコントロール不能な恐怖や狂気について考え続けているのかな。
こんな本物のアーティストだとは全然知らなくて、高校生のとき“ムズッ“て思って以来見ていないリンチ作品をしっかり観ようと決意した。
もうすぐGYREで制作した作品の実物が見れるのが楽しみ。