ラウぺ

キックスのラウぺのレビュー・感想・評価

キックス(2016年製作の映画)
3.7
ファッションに疎い私ですが、中学生くらいの少年がスニーカーに憧れ以上の気持ちを抱くのはわからなくもありません。
中学・高校の頃は周囲にそういうのは確かに大勢いました。
ブラックミュージックやファッションにアンテナの高い人的には更に共感度が増すのではないでしょうか。

しかし、西海岸の黒人街での少年の生活というのはこんなに弱肉強食で過酷なものなのか?こんなトコには怖くて暮したくない、というのが正直なところ。
スニーカーだけでなく、身体的な強さと強靭な意思がないと居場所がない、というのはある意味「北斗の拳」や「マッドマックス」の世紀末的世界そのもの。
まあ、本当のところはどうなのかは、この際気にしちゃいけないということでもありますが、そうした過酷な環境を舞台装置として用意することで、単なる少年の成長物語以上に緊張感とサスペンス風味が増幅され、映画的醍醐味が増したと思います。

少年の心情に寄り添うかのようにところどころで登場する宇宙飛行士はこの映画の大きなポイントではありますが、これはやや微妙な演出だと感じました。
冒頭のナレーション以外にはスニーカーに心酔する少年の生活やアイテムに宇宙っぽい雰囲気を漂わせるものが何もない、というところがちょっと残念なところ。

主要な登場人物はほぼ全て黒人の青少年なのに対し、唯一ひとりだけ登場する大人が主人公の叔父さんのマハーシャラ・アリ。
登場する前から周囲の者すべてがその気配にビビり、登場しただけで空気が一変するほどの圧倒的存在感はさすがとしか言いようがありません。
人生の表も裏も知り尽くした大人がガキに教訓を垂れる、的な役柄を演じたらこれ以上強力な俳優は居ないでしょう。
登場場面はそれほど多くありませんが、良いところ全部持っていく感じ。
マハーシャラ・アリは「ムーンライト」でも大変印象的でしたが、「アリータ:バトル・エンジェル」や「グリーンブック」など近作も大いに期待したいところ。

物語はスニーカーを盗んだチンピラとついに正面対決に及ぶわけですが、なるほど、納得の落としどころという感じ。
見る側も一回りデカくなった気分で劇場を後にすることができました。
ラウぺ

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