糸くず

世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方の糸くずのレビュー・感想・評価

3.6
見た目の可愛さとは裏腹に、中身はジョン・カーペンターの傑作『ゼイリブ』のようなディストピアSF。

いかにもヨーロッパの児童文学を思わせる、のどかな田舎の村の風景。大きな風車、貯水タンク、自転車に乗る郵便配達のおじさん。のんきな大人たちと、生意気な6人の子どもたち。子どもたちの味方であるじいちゃんばあちゃん。驚異の知性と手先の器用さを発揮するアナグマ(さすがに人の言葉はしゃべらないが)。物語を彩る愉快な歌とダンス。

しかし、この映画は反逆の映画なのである。この物語の舞台であるボラースドルフは、世界一平均的な村である。そこに目をつけた調査会社が、新製品の試験場として、この村を選ぶ。まだ発売されていない新製品を利用できるとあって、大人たちは喜ぶ。テレビでは、新製品のCMがバンバン流れる。大人たちは、自分たちがどこまでも「普通」であることに喜びを見出だし、新しいものに次々と飛びつく。そして、「普通」ではないもの、個性的なもの、古いものへの嫌悪感を持つようになる。ついには、老人たちを老人ホームに押し込める。

調査会社がやっていることは、『ゼイリブ』の宇宙人たちと変わらない。商品と広告を使った洗脳である。ドイツ映画だからかどうかはわからないが、平均的であることを美徳とすることへの恐怖が、遠い物事ではなく、身近なものとして刻まれている。密告者の存在をちゃんと描いているあたりもリアルだ。この密告者の役割を、一番の美少女に与えているのもいい。

では、世界を救うものは何なのだろうか。それはもちろん「個性」であり、常識はずれの物事である。空飛ぶ列車、クレーンを改造したジェットコースター、汽船を改造した潜水艦、ゴミから自転車を作り出すゴミ収集車、トラクターを改造したアンビエント・ミュージックを演奏する謎の機械。これらはリアルから大きく離れたアイテムばかりだが、「普通」からはみ出す想像力こそが重要なのだ。

ポップな見た目に油断していると、じわじわと毒が効いてくる。子どものための一筋縄ではいかない反骨のファンタジーだ。
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