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娘よのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

娘よ(2014年製作の映画)
4.0
 日本で初めて劇場公開されるパキスタン映画。山岳地帯の部族社会で、10歳の娘ザイナブが和睦のため相手方の老部族長に嫁がされることを知った母親アッララキが、結婚式当日に当の娘を連れて家を脱出、名誉を傷つけたとして双方の一族から追われ、命がけの逃避行を繰り広げる。

 偶然、母娘を助けざるを得ない羽目に陥ったトラック(南アジア映画らしい満艦飾!)の運転手は、元ムジャヒディン(「ジハードを遂行する者」という意味)だったが戦いよりも愛を選んだという青年だった。自身が15歳で嫁いで年上の夫に仕えてきたアッララキと彼の許されぬ淡い恋模様を折り込みつつ、遙かにカラコルム山脈を望む壮大な風景のなか、アクション映画さながらのサスペンスフルな展開に、観客はハラハラしながら、母娘の運命に幸運を願わずにはいられない。

 監督はラホールでコンピューター・サイエンスを学び、その後アメリカ合州国のコロンビア大学で映画学を専攻、現在はニューヨーク在住。この作品は構想して10年、資金集めは難渋を極めたがノルウェーの基金からの助成を受け、治安が急速に悪化しつつあった国境地帯で、イスラム法学者からの撮影許可が降りないといった困難を乗り越えて、降雪で道路が封鎖される前に4週間の撮影を敢行。2014年にトロント国際映画祭でプレミア上映。パキスタンでの上映も成功を収めたという。

 物語の始まりで、ザイナブは母のアッララキに英語の単語を教えている。強制結婚をさせられる少女が毎年1400万人にのぼり、女を所有財産とする家父長制は世界的に未だ過去のものとはなっていないが、女たちをいつまでも因習に閉じ込めておくことはできないと、この作品の存在自体が語っている。

 

 

 
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