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カーズ/クロスロードのRenのレビュー・感想・評価

カーズ/クロスロード(2017年製作の映画)
3.5
『カーズ』とは表裏一体の作品なので、一作目を観た人は全員観るべき。『ベスト・キッド』風味を出しつつも『グラン・トリノ』であり『トップガン マーヴェリック』だ。ピクサーが3作以上作ったシリーズ『トイ・ストーリー』と『カーズ』がとても似た幕引きを迎えたのは偶然ではないように思える。

語り口は非常に渋い。シリーズどころか全ディズニー映画の中でも大人向けなほうだと思う。メーターとの友情の話は『カーズ2』で全部やりましたと言わんばかりに、今作ではマックウィーンの現役人生にフォーカスを絞った点が、大人のスポ根ムービー完結編として真っ当だと思う。

一本のエンタメとしてはそこまでスカッとできるものではない気はする。間延びしているシーンがとても多いし、終盤までは登場人物の行動原理がほぼ苦悩・葛藤に割かれているからだ。
その点00年代ピクサー作品とはまた毛色が違うけど、だからこその秀作とも言える。

世代の話として、詰まっている要素の数が凄い。①スモーキー②ドック③マックウィーン④クルーズの4名が、①→②、①→③、①→④、②→③、③→④、④→③などあらゆるレイヤーで作用し合う。
「引き際は若者が教えてくれる」。現役の自分が何を突き詰め何を残していくべきかを問うた青春セカンドライフ映画。
だからと言って、引退を控えたスポーツ選手しか共感できない映画ではない。職場、学校、部活、習い事などであらゆる引退や卒業を経験してきた全ての人が自分事として消化できる可能性を秘めている。

戦友が次々と引退し、時代の流れの中で取り残されていくかつてのスターが返り咲きたい一心で踠き続ける姿は誰の目にも悲痛に映る。冒頭の、新人レーサーの背中にどうしても追いつけない描写が陸上競技をやっていた身として辛かった。
最新トレーニングには馴染めない(馴染まない)、従来トレーニングでは追いつかない苦悩。引退のレースをかけた直前のマックウィーンの表情に全てが詰まっている。全てを受け入れた者の絶望半分決意半分の顔。

今作では、「育成」も去ることながら「未来のある者に席を明け渡す」点に重きが置かれている。その新しい才能がどのような結果を出すかは分からないが、まずは身を削ってでもチャンスを与える。プロフェッショナルの行き着く先は「新しい世代の味方をすること」なのかもしれない。

その他、
○ 相変わらずレースシーンのカメラワークはかっこいい。水と泥の表現、ポスターにもなっているマックウィーンの大クラッシュシーンの火花や煙の表現が素晴らしい。
○ 日本語版エンディング曲は奥田民生。人選が渋い。
○ マックウィーンをピクサー創設者の一人であるジョン・ラセターに置き換えて見ても良いよね....?



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










だとしたら、ラストの展開への伏線は張っておくべきだったとは思う。自分はレースのルールをよく知らない人間だったので、初見時に選手交代ってアリなの?と困惑してしまった。例えばシリーズ一作目で、チックとかがあの方法を使ってチートしてたら良かったかも。

結末も気持ち良すぎ・上手くいきすぎで、この辺りにはラセターイズムが強めに出てしまっている。クルーズが1位になったことに「気持ちいい」以上の理由はさして無い。優勝しなくても、最後に抜かさなくても、ちゃんと脚光を浴びてこれからのキャリアへの足掛かりは掴んでいたと思うよ。

そもそも「ジャクソン・ストームが "最新式の" 実力者」で、それ故に自分の立場を思い知ったことがマックウィーンの行動原理としてあったはずだが、最後のレースでは「ジャクソンがイヤな奴」であることの比重のほうが高くなる。世代間の話が消え、新世代のイヤな奴に新世代のそこまでイヤじゃない奴が勝つレースの話に変貌する。
なので、ジャクソン優勝クルーズ準優勝でさらなる新世代への注目が高まる&旧世代の指導者へのリスペクトも高まる、という方向でも多分作れた。ジャクソンをイヤな奴にしたことが微妙に雑味になっていた気がするが、その辺りもラセター的勧善懲悪構造のエッセンスだろうか。
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