オレンチ

カーズ/クロスロードのオレンチのネタバレレビュー・内容・結末

カーズ/クロスロード(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

『キャラクターと共に時を重ねることができるのが、続編の魅力である。』
──三宅隆太。

カーズ2がねぇ〜…ちょっとあれでしたからね〜。
カーズの世界観がブァ〜っと広がった感じは良かったんですけどね。
ナンバリングされたスピンオフみたいな?w

そんな流れでのシリーズ最新作、カーズ3改め、クロスロード!
一体どうなんでしょうか!?

というわけで吹替2D・字幕2D・吹替3Dをそれぞれ一回づつ、スタッフによる音声解説版、各種メイキングを鑑賞しました。

とりあえずね、泣きました。
ただ号泣かと言われるとそうでもなくて、ホロ泣きくらいでしょうか。
何故かというとですね、まぁテーマは言わずもがな《世代交代》ですよね。
このテーマ自体はよくあるもので、特に世の3作目、4作目にはこのテーマであふれていると思います。
ただですね、他の世代交代ものとちょっと違うのは、すげー《体感型》ですよね、コレ。
感のいい人はクルーズの登場付近で気づくかもしれませんが、僕はボンクラなのでしばらくマックィーン再帰の物語だと思ってました。
がしかし!第3幕に入った瞬間、一気に主役がひっくり返るんですよね。
しかもよくよく考えてみると、唐突にぶっこんで来たわけではなく、ちゃ〜んと第2幕の至る所にこうなることを示唆しているんですよ。
このストーリー運びは見事でしたね。
なんか第2幕退屈だな〜とか思っちゃってたんですが、
『すいませんでした!!!』
って感じでしたね。
点と点が繋がって一本の線になったあの瞬間、マックィーンの"チャンス"の話。
泣くでしょこんなん。
30歳を迎えて涙腺が脆くなっていることも事実なんですがw

ただし何故ホロ泣きか?
理由一つです。

『俺にはまだ早い!!!』です。

前述した通り僕は30歳なんですが、レーサーの選手寿命はわかりませんが世の30代のほとんどは働き盛りですよね。
まだまだ世代交代の時期じゃないというか、まだ第一線は譲る気ないというか…。
そういう意味で自分と重ねるにはまだ早いと感じてしまったんですよね。
本作が産むカタルシスは、人生のベテランとなった方達にほど響くものなのかなと感じます。
あと10年くらい経ってから観たら多分号泣ですねwもう少し先かな?


で、内容の方を細かく掘り下げていこうと思うんですが、
まず冒頭ですね。1作目っぽい!良い!
『本作はマックィーンの物語なんだ。』
って思惑が伝わって来ます。
でここから第二幕に入るまでの疾走感がまたいいですねー。
マックィーンが如何にレースを愛しているか、良きライバルたちの存在、どれだけ幸せな環境なのかテンポよく伝わって来ます。
この"良き環境"が伝われば伝わるほど、次第に押し寄せる世代交代の波が"自分の世界を変えようとしている"という不安感を上手に煽っていたなーと思いました。

で、第一幕のターニングポイントに決定的な事件が起きますね。
とうとうマックィーンが世代交代の波に覆われてしまった瞬間です。
重なるのは明日に向かって旅立った、我らがポール・ニューマン演じるドック・ハドソンですね。
ドックがその先どうなったかは1作目でみた通りなのですが1作目の場合、極端な言い方をすれば"他人事"なんですよね。
しかし、本作はシリーズを通してマックィーンに感情移入させるように作ってあるわけですから、自分の身に降りかかったかのごとくマックィーンと共に今後どうすべきか考えて行くことになります。

この第一幕、テーマの動機付けまで流れが秀逸だと思います。
ただ、それよりもピクサーが凄いなと思うところは『トイストーリー3』にも言えることなんですが、《永遠のヒーロー、ヒロイン。あるいはプリンス、プリンセスであるべき存在を自らの手でぶち壊す》ことなんですよね。
もちろん良い意味でですが、本来夢を与える系のファンタジーアニメの中で生きているキャラクター達は、どんなに続編が作られようと時の流れを感じさせないように作られています。
なぜならそれが彼らの務めであり、観ている人も同時にそれを求めているからです。
その流れを破ったのが『トイストーリー3』の凄いところであり、僕が大好きなところでもあります。
何処がすごいかというと、彼らに夢を与えてもらった我々は大人になってしまったが、実は彼らも同じ流れの中で成長をしていた。ということです。
つまり、夢の世界が我々の成長に合わせて現実に歩み寄って来てくれてるわけです。
そうしてくれることでキャラクター達への親しみが爆発的に増幅し、涙の琴線に触れるんだと思います。
コレは本作にも全く同じことが言えるんじゃないかなと思います。

で、第二幕。
ここはマックィーン再帰の話!と思わせておいて、クルーズとの師弟関係を描くところですね。
ただ正直言って、この第二幕は大部分が退屈に感じてしまいました。
その原因は本来の目的である"師弟関係を描いている"ということを極限まで隠蔽されていたことにあると思います。
マックィーン再帰の話だと思ってみていた僕にとって、ここでのクルーズの存在は邪魔以外の何者でもないんですよね。
というかクルーズのキャラがなんかイマイチ掴めなかったかなと思います。
元々トレーナーとして登場した時は、"優秀な奴"なイメージが先行していたため、その後の彼女はなんだか悪ふざけしていたようにしか見えなかったんですよね。
なんていうか、もっと昔のマックィーンに寄せていっても良かったんじゃないかなとも思います。
まぁおかげで撒かれた点が繋がった時はこの上なく感動したんですがw

そんなことよりも第二幕で特筆しておきたいのはトーマスヴィルで登場するレース界のレジェンド達ですね。
ポッと出で済ますには勿体無いくらいモデルとなった方達がレジェンドでして、(ポッと出にしておかないと話がややこしくなるためコレが正解だとも思うんですがw)その中でも2名ほど紹介しますね。
まず一人目が黒人レーサーのウェンデル・スコット。
彼は第二次世界大戦で整備兵を務めたのち、レーサーとなります。
しかし時代は黒人には冷たく、特にストックカーが盛んだった南部では風当たりは想像を絶するものだったそうです。
レース中のメカニックも自分で務め、各地のレースに出るためにアメリを横断するのですが、道中のほとんどガソリンスタンドで給油を拒否されたそうです。

もう一人は女性レーサーのルイーズ・スミスです。
劇中、彼女が言っているナンバープレートを盗んだ話、あれは彼女自身の実話がベースになっています。
それどころか黙って夫の車を持ち出してレースに参加していたというんだから驚きです。
さらに凄いのが本当に怖いもの知らずで、何回クラッシュしても引退することなくレースに挑んだそうで、ペシャンコに潰れた車の中で救助を待っている間、笑顔で待っている写真も残っていました。
彼らに共通して言えることは、どんな逆境にも負けず挑戦し続けたということですね。
なんか『ロッキー』みたくなってきたw
ほんと彼らで一本づつ映画が作られても良いんじゃないかなと思うくらいです。

禁酒法時代のネタなんかもサラッと詰まってて面白かったですね。彼ら先人たちは昼間はレーサー、夜は闇に紛れて密造酒を運んでいたそうです。

そして第三幕。
ここでブライアン・フィー監督がこんなことを言っていました。

『マックィーンは人生の第2ステージへ進んだ』

さらに

『いつしか自分を守ってくれている人達はいなくなってしまっていた。しかし、いつのまにか守るべき相手が出来ていたんだ。』

これがカーズ3を通して伝えたかったことなんじゃないでしょうか?

"守るべき相手"、対象は色々あるかもしれませんが人生を歩んでいけば誰しもに生まれるものだと思います。
そんなことを夢の世界が現実に歩み寄って教えてくれる。カーズ3は良作だと思います。

最後まで長文・乱文にお付き合い頂きありがとうございました。