マーチ

光のマーチのレビュー・感想・評価

(2017年製作の映画)
4.3
フィルマークスのドラマレビューの方に『北斗 -ある殺人者の回心-』というWOWOWの作品でレビューを投稿しましたので、もし良ければそちらの方も見ていただけたらと思います!


【下半期鑑賞映画寸評:2017】

《失って得るものの大きさ》

恥ずかしながら河瀬監督の作品を観たのは今作が初めてです。「カンヌノミネートがなんぼのもんじゃい!」という謎の高圧的な態度で片手間程度に観ようと予告はおろかほぼ情報を入れずに観たのですが、情報を遮断して大正解でした。冒頭からグイッと引き寄せられ、いつの間にか食い入るように観ていると思ったらあっという間に101分が過ぎていた…片手間なんてトンデモない! 河瀬監督ほんとすいませんでした🙇🙇‍♀️ 素晴らしい作品でした、傑作です! マスターピースです!!

正直今年の邦画は不作だと思う…例年に比べて明らかに邦画を観た本数が少ない。これは昨年の余波なのか。
勿論作品の内容的に良いものはいくつかあったし評価もしてきたつもりだけど、心に重くのしかかり、響いてくるような作品は個人的にはあまり多く無かった。そんな中、今作が2017年邦画界の一筋の“光”として存在してくれていて本当に良かった。

まず着眼点が凄い…映画の音声ガイドに携わる仕事なんて完全に盲点だった。そりゃ全く知らなかった訳じゃないし、そういう上映方法があるのは知っていたけど身近じゃなかっただけに新しい世界を見た気がした。

タイトルにしているだけあって、“光”による趣向を凝らした演出はどれも綺麗で芸術的。プリズムの煌めきや反射光の妙、太陽光など何通りにも及ぶ偽物でない光の美しさが作品全体を彩っている。

圧巻なのが永瀬さんの演技で、視覚障害を抱えながらも少しだけ視えることに希望を見出し、最も愛するカメラに熱を注ぎ込む男、雅哉を完璧に近い巧みさで見事に演じ切っていた。希望が失われ、大切なものを手放す雅哉の決断の早さに驚く。二度と戻らない日々に縋るのではなく、目の前の現実に即座に向き合い、自分にとって最善の決断をする。例えそれが自分にとって1番ツラい決断だっとしても、悔いていては何も始まらない、受けて止めてただ前に進むしかないのだ…とでも言うかのような振る舞いに強く胸を打たれた。確かにその通りだ。過去に固執して今を失うよりも未来をより良くするために今を精一杯生きた方がきっと快方に向かうはず。彼の生き様に一瞬の、一生の儚さとそのかけがえのなさを教わった。

雅哉が視力を失うまでの過程を見たことで印象が180度変わり、心動かされた美佐子は彼のことを支えようと気にかけ始める。個人的には恋愛要素を持ち込む展開に萎えてしまったものの、2人の数奇な関係性や運命には恋や愛以上の何かがあると思っている。きっと2人でなければダメで、出会うべくして出会った何かがあるはずだ。

バックボーンの関連性や詳細をあまり深く語らないのに好感が持てるし、あの音声解説は実際に美佐子役の水崎さんが執筆していたり、劇中の写真は永瀬さんが実際に撮影したものだったりと裏話にも花が咲く面白さがある映画だった。

目に寄って撮っているカットが多いので、目の繊細な演技=目の表情 とも言える難しい演技が求められるわけだけど、この作品の演者は全員がその困難な演技のハードルを突破し、作品のクオリティを高い位置に押し上げている。演出として適切でありながら、これ以上にない素晴らしいアプローチに感服した。

ただ、一度綺麗に幕を閉じてから再び映画上映のシーンに戻るのは不要に感じた。エンドロールの間に余韻を噛み締めようと思っていただけに、肩透かしのような感じだった。

とにかく美しく、息苦しいストーリーに圧倒される。日本映画も年に何度かこういう強烈な個性を持った作品が観られるようになれば嬉しい。


【p.s.】
下半期に突入しましたが、上半期鑑賞映画のレビューをまだ消化しきれていないため、下半期鑑賞映画も一部は寸評で投稿していきます。

いつもとは違い、極々短いレビューで投稿しています。暇があれば付け加える予定です。

従って、いつもの【映画情報】等もカットさせていただきます。

*詳しくは2017年7月3日に投稿している《『ローン・サバイバー』評》内の【p.s.】をご参照下さい。
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