pippo

光のpippoのネタバレレビュー・内容・結末

(2017年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

この人の作品は観るのに勢いが要るので借りてきたものの中々観る気になれずにずっと棚に置かれていました。
しかし、なんとなく心の調子が整った感じがした日に思い切って見始めました。
するとどんどん作品の中に吸い込まれていき、途中胸に刺さるセリフもいくつかあり、心に残るシーンもいくつかありました。
好きだったシーンは男が女の顔を触るところで急に近くの道路を走る車の音が聞こえてくるところ、あの音で私は急に自分の聴覚を意識しました。すると不思議なことに目の見えない男がいま女の顔を触っている、その指先の感覚を私も感じているような気がしました。
ほかにもあります。男が完全に視界を失い、電車の中で隣に座っているヒロインの手を握りしめるところです。
その時に私は目が完全に見えなくなってしまった瞬間に傍に誰かがいてくれて本当に良かったねと、心から思うことができました。
実はこのシーンの男が失う光が最後のナレーションにあった光という言葉への架け橋(ここは伏線という言葉は相応しくない気がしました。)になっているのだなーと感じました。
つまり男は映画館でナレーションを聞き、ラストのナレーションの光という言葉を聞いた時にかつて自分のまぶたの中にあった光を思い出していたのだろうと、そういう気持ちが伝わってきました。そこがとても良かった。
最初ヒロインを見た時にはそこまで綺麗な人だとは思わなかったのに、あっという間にグイグイ魅力に惹き込まれて目が離せなくなりました。
主役の男の演技が素晴らしくて、片時も目を離せない。
一つだけ唐突感を持ったのがキスシーンでした。なぜあのタイミングで?
ヒロインの心を今ひとつつかみきれませんでした。
キスシーンもしかしたらなかったとしても2人の互いの思いは強く伝わってきたかもしれません。
悩みに悩んだ結果、あの素晴らしいナレーションに行き着いたことは、まさに仕事の醍醐味であり、喜びであり、そして人は立場が違っても、分かりたい、分かり合いたいという思いがあれば、きっと理解し合えるんだ、ということにあらためて気付かされました。
美しく、静かで、言葉の大切さを再確認できた作品でした。
しかし、省略によって観客が目を背けたくなるシーンは上手に大胆にカットしてあり、そのことで、これはドキュメンタリーではなく、映画なんだよね、とふと思ったりもしました。
たとえば男が吐瀉物の上で足を滑らせ転んだ後で、何とか駅のトイレまでたどり着きそこで上着を洗いますが、その駅まで行く間は背中にベッタリ吐瀉物がはりつき、きっと臭いもあり、そこってどうなるの? という部分はスッポリカットしてあり、惨めさはテーマではないから省くのかな? 視力を失い撮れなくなるという所にクローズアップするためにそこは入れないのかな? なんてことを考えたりもしました。
好きな作品でした。この作品がくれた多くのものを大切にしていきたいと思います。
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