茶一郎

gifted/ギフテッドの茶一郎のレビュー・感想・評価

gifted/ギフテッド(2017年製作の映画)
3.8
 「今年度、泣くならこの映画!」といった具合の、観客の涙を容赦なく搾り取る映画が来てしまいました。
 独身の叔父フランクと猫フレッド、そして天才的な数学能力(ギフテッド)を持って生まれたメアリー、2人と1匹の愛しいドラマを映すこの『ギフテッド』。小さい女の子・天才的な子どもを育てることに葛藤する親、ネコ、少女を受け取ろうとする祖母の登場・少女「ずっと一緒にいられるよねパパ?」なんて、これはもう「どうぞ泣いて下さい」と言わんばかりの布陣です。

 監督は、今作と同じく20世紀FOXの子会社にして芸術映画を製作・配給している「FOXサーチライト・ピクチャーズ」製作『(500)日のサマー』で鮮烈なデビューを飾ったマーク・ウェブ。一回目のスパイダーマンリブート作『アメイジング・スパイダーマン』で超大作の監督に抜擢されるも、2作目『アメイジング・スパイダーマン2』でシリーズを打ち切られ捨てられた、何とも昨今大流行のアメコミ大作の「闇」を請け負った監督と言えます。
そんなマーク・ウェブ監督が、再び小さな映画に戻ったのが今作『ギフテッド』。インタビューで「映画作りの楽しさを思い出した」と語る監督ですが、どうにもハリウッドのトップの大作監督から路線を外れ、小さな今作の製作を楽しむウェブ監督と、学者としての出世街道を外れるも、一人娘と小さな町で幸せな生活を送っているこの『ギフテッド』におけるフランクとが重なって見えました。

 全編が非常に愛おしく、物語も素朴でシンプル。MTV出身監督らしい『(500)日のサマー』で見せたポップな演出も抑えたことにより、「人と人」のドラマが際立ちます。間違いなく万人にオススメできるこの『ギフテッド』ですが、一方で物語の歪な部分も残りました。
 つまるところ今作の問題はフランクの「親としてギフテッドな子供を普通に育てて良いのか」というフランクの親としての葛藤とそれを残り越えた先にあるはずの成長物語が、天才少女メアリーを奪い合う法廷劇と、特殊な祖母の「親」としての物語に横滑りしていっていることです。
フランクが葛藤するシーンを見せながらも、「メアリーは『普通』に育てられるべきだ」と亡き姉の「遺言」を錦の御旗に言い続けるだけ。メアリーを普通に育てるかどうかは親の遺言でなどではなく、メアリーが普通に育てられたいかどうか、メアリーの意志に従うべきだろうと、個人的には怒りが湧き上がり、メアリーが楽しそうに読んでいる数学の本をフランクが取り上げたシーンでは怒りが爆発しそうでした。

兎にも角にも今作の問題点は、「ギフテッドな少女と暮らす父親の物語」が、「ギフテッドな少女2人を神からの『贈り物(ギフト)』として私物化しようとした母親の物語」に転換してしまっているということに尽きます。
お涙頂戴映画としては完璧ですが、非常にナイーブで普遍的な「父になれない父とその子供の物語」を語るには作り手の誠実さが欠けているように思いました。
茶一郎

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