きざにいちゃん

出口のない海のきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

出口のない海(2006年製作の映画)
3.5
八月なのでまた戦争映画。
佐々部清監督、横山秀夫原作で『半落ち』に続く同コンビによる作品。
山田洋次さんが脚本(今村昌平監督の『うなぎ』を書いた冨川元文さんがもしかしたらメインライターなのかも知れないが…)の背景はよく分からない。朝日新聞、テレ朝がスポンサーになっているので、反戦メッセージを強めたいそちらからのリクエストだったのかも知れない。

原作は未読だが、回天という潜水艇特攻をモチーフに、海底と潜水艦という息詰まる閉塞感を戦争、特攻の暗鬱さのメタファーとしたのはアイデアだと思う。
爆音、銃声が響き、悲鳴や血飛沫が飛び交う戦争映画とは異なる、静かで重苦しいタッチは、大袈裟かもしれないが、反戦映画としてひとつの画期を成すと言ってもいいような気がする。

ただ、結果として静かな人間ドラマとなり、いきおい、観る者を揺さぶる振幅も小さくなっているのが残念。
そして、やや深みに欠ける文科省推薦的な雰囲気のシーンが散見されるのも個人的には気になった。

しかし総じて言えば、戦争によって思い半ばで終えねばならない人生を昇華できない悔しさや哀しみは切々と伝わって来る、なかなか悪くない作品だと思う。

これは本来の映画の出来とは少し違うけれど…
エンドロールに流れる竹内まりやの「返信」が秀逸である。
この曲は、映画の為の書き下ろしで、まさに主人公の遺書に対しての上野樹里演じる恋人からの返信ととれるし、まりやさんもそのつもりで作っているのだと思う。

結局、この映画で一番いい仕事をしているのは、最後の最後に流れるこれである。