晴れない空の降らない雨

君のまなざしの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

君のまなざし(2016年製作の映画)
-
※ 宗教法人幸福の科学の信者の方は読まないように。
 
 
■前置き
 自分語りになるが、幸福の科学(以下HS)の映画とは、『永遠の法』(2006)との出会いから10年以上の付き合いになる。HS映画には、独特の楽しみ方がある。つまり、周囲の観客たちの大半が信者と考えられるので、「絶対に笑ってはいけない映画鑑賞」というスリリングなイベントになるのである。こんな体験はそうそう得られない。ちなみに大半はアニメ映画で、実写映画を観るのは『ファイナル・ジャッジメント』以来2本目(『天使にアイム・ファイン』は観てない)。
 
 
 さて本作、『君のまなざし』などという、アレを意識した青春ものとしか思えない、それでいて箸にも棒にもかからないタイトルをつけておきながら、キャッチコピーは「新感覚スピリチュアル・ミステリー」という要素詰め込み具合が既に迷走してて笑えてくる。蓋を開けてみると、どんでん返しはあるけどスピリチュアルでもミステリーでもない何かだった。実は幽霊だったなんて、とても独創的なアイディアだね!
 前半、避暑地のペンションで「男女4人夏物語」的なシチュになり、戯画的なまでにベッタベタのラブコメ展開に何がしたいのか分からず困惑させられる。主人公を好きな女がヒロインに嫉妬してバケツの水を浴びせる斜め上な一幕があるが、なぜかショットがスローモーションで強調され、愉快を通り越して意味不明。しかも話が佳境に差し掛かるとこの女は退場し、本筋と全く関係ない。俺には、このシナリオに隠された深い訓えが分からない。誰か教えてくれ。監督の赤羽博というのが昔トレンディドラマをたくさん撮っていたお方らしいが、そのせいなのか? ただの雇われだろうし、多分違う(詳しくは後述)。
 話が進むと結局いつものHS映画となり、失笑・苦笑ポイントが散りばめられた雑な感動ストーリーと、それを総括する退屈な説教によって構成されている。説教パートはマジで喋っているのを正面から撮っているだけなので、睡魔と信心の戦いになる。
 好き放題やれるアニメと違い、実写はいろいろとショボい(アニメと比べて待遇が悪すぎる)。いちおう仮にも宗教映画なのに、神秘性や宗教性を演出するVFXがあまりにチープ&陳腐で、「何だかなぁ」という気持ちにさせられる。例えば、薄明光線(雲間の斜光)はCGなの丸分かりな不自然さだし、明らかに量が過剰だし、そもそも「神秘」のイメージがテンプレ過ぎる。効果音も同様の安易さで、フリー素材みたいだ。商業的なスピリチュアリズム(書店の精神世界棚系)との差別化の努力が清々しいほどみられない。
 
 それとこの映画、教祖の長男がプロデューサー、脚本、出演、そして主題歌とめざましい活躍をみせ、作品を完全に私物化しているのがHSウォッチャー的には面白い(よく見ると父親に結構似ているのも面白い)。彼の叫ぶ/怒鳴る/棒読みする以外に能のない芝居は見物である。
 が、最高なのはなんといっても主題歌で、内容(と顔)に全くそぐわぬヴィジュアル系? なサウンドが流れてきて、何が出てくるかと身構えていたら「女の子にはみんな秘密があるんだ」とか聞こえてきて、もう腹がよじれるほど笑った。『仏陀再誕』の《悟りにチャレンジ》以来のインパクトだった。ちなみに歌唱力は演技力と大差ない。
 
 調べたら、この『仏陀再誕』もこいつがシナリオ書いていた。これも本当にグッダグダのひどいストーリーだったが(これに比べれば、前作の『永遠の法』はちゃんとしていた)、これで合点がいった。この『仏陀再誕』にもコッテコテのラブコメ展開があるのだ。おそらくこの長男坊の趣味なのだろう。
 さらに、本作で彼が演じる役柄は霊能力者の家系の末裔であり、霊がみえるせいで虐められたり、父親には過酷な修行を強いられてきたという設定は、当然こいつ自身の立場を連想させるものである。そういう思わせぶりなことをして興味を引こうとする、自意識の垂れ流しがすさまじい。主役を食うほど出しゃばってきてあの演技、そしてあの歌を公に披露する勇気といい、何というか周囲から散々甘やかされて育ったんだろうなぁと想像させられる。これからも親の財力を活かして我が道を突っ走ってほしい。がんばれ、大川宏洋!