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ユリゴコロのinotomoのレビュー・感想・評価

ユリゴコロ(2017年製作の映画)
3.6
カフェを営む亮介は、ある日突然恋人の千絵が姿を消し、動揺する。さらに、男手ひとつで自分を育ててくれた父親が、癌で余命僅かと知り、落ち着かない。ある日父親の元を訪れた亮介は、押入れの中に「ユリゴコロ」と表紙に書かれたノートがあるのを見つける。中には、幼い頃から人を殺す事を繰り返し、それを心の拠り所とする女性の手記が書かれていた。
イヤミスとして評判高かったらしい、沼田まほかるの小説を映画化した作品。ミステリーとしてはまずまず。そんなうまくいくわけないじゃん、と思わせる部分が多く、途中で登場人物の関係性に、なんとなく予想がついたりしてしまうけど、この前見た「愚行録」より後味悪い感じはしなかった。人としての良心とも言うべき「ユリゴコロ」を探しながから、人を殺す事でしか生きていけない、哀れな美紗子という人物が、丹念に描かれていたし、愛を知る事で人として変化していく美紗子の姿がきちんと物語の核にあったからだと思う。作品としては、血みどろ、痛みの描写のインパクトが強くて、それに負けちゃっている印象もあるけど、重いストーリーに負けない俳優達の演技が良かった。美紗子を演じた吉高由里子は、実はあまり好きな女優ではないけど、狂気や清楚さ、美しさや哀しさ、全てをしっかり体現していて、とても良かった。亮介役の松坂桃李は最近贔屓の俳優だけど、追い詰められていく余裕のなさを熱演。なんと言っても良かったのは、美紗子と運命的に出会う洋介を、包容力たっぷりに演じた松山ケンイチ。美紗子のセリフを借りれば、容赦ない優しさが、しっかり感じられた。
「愚行録」と違い、わずかな安堵の光がラストに垣間見得たのも好印象。ただ、見るにはちょっとパワーのいるミステリーでした。
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