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クローバーフィールド・パラドックスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.1
 今からそう遠くない近未来。地球は深刻なエネルギー不足となり、このままでは5年以内に資源が枯渇するという。エヴァ・ハミルトン(ググ・バサ=ロー)は重大な任務のオファーを受けながら、地球での暮らしとの狭間で迷っていた。ガソリン・スタンド前では大きな渋滞が出来ており、今日何度目かの停電が起きる。彼女の恋人であるマイケル・ハミルトン(ロジャー・デイヴィス)はその迷いを見透かしたように、行っておいでと優しく声を掛けるのだ。こうしてそれぞれの理由で集められた6人の宇宙飛行士たちは、シェパード粒子加速器を宇宙から地球へ放つことで莫大なエネルギーを得ることができることを突き止め、クローバーフィールド宇宙ステーションに搭乗し、地球のエネルギー危機を解消する任務に就く。だが彼らの意欲とは裏腹にもう2年もの時間が経とうとしていた。地球では残り少ないエネルギーを自国のものにしようと、国同士が石油を奪い合う石油戦争へと発展し、ロシアが他国への侵攻を始めた。対するヨーロッパのドイツはロシアに対抗すべく戦争の準備をへと入り、エネルギー確保のために飛び立った宇宙飛行士たちは苛立ちを隠せないでいた。

 『クローバーフィールド』シリーズ第3作目にあたる今作は地球から遠く離れた宇宙へと舞台を移した前日譚である。1作目の『クローバーフィールド/HAKAISHA』は明らかに9.11を連想させるような全編手持ちカメラの臨場感が凄まじく、ニューヨークを破壊し尽くさんとする怪獣の姿は掠めるほどにしか見えないものの、臨場感に溢れた逆転の発想による傑作だったし、2作目の『10 クローバーフィールド・レーン』は限定された空間に逃げ込む密室劇の佳作だった。今作は地球と80億人の命運を握った国際的なプロジェクトの任を受けた6人が宇宙へと向かうドラマだが、2年経ってもプロジェクトの進捗状況が芳しくないためか、ヒロインのエヴァを筆頭に誰の顔にも疲労の色が浮かび、世界連合チームには不協和音が流れる。宇宙船内で繰り広げられる人間ドラマはいかにもJ.J.エイブラムスが関与した『スター・トレック』シリーズ再びの雰囲気もあるが、次々に不可解な出来事が起こり、乗組員たちが脱落するパニック・ホラー的な味付けは『エイリアン』シリーズをも思い起こさせる。

 しかしながら非科学的で何の説明もないまま「並行世界」と「四次元」を混同させる都合の良いミラクル設定をカマシてくるあたりは、バッド・ロボット・プロダクションズもストック切れ感ありありで、シリーズを楽しみにしていた者としては何とも乗り切れない。ミミズも自力歩行の腕も何なら突然の侵入者も、伏線になるべき多彩なアイデアをまるで手品のように矢継ぎ早に次々に拡げてみたものの、そのどれもに明確な答えを出さぬまま、最後に力任せに「あれ」を投入した印象しか残らず、消化不良なのは否めない。相変わらずノルウェー人にロシア人役をやらせるという帳尻合わせはどうなのよという疑問やチャン・ツィイーは英語が喋れなくてもチャン・ツィイーだから平気なのかという地球の命運を握った精鋭部隊らしからぬゆるゆるな描写の数々には苛立ったが、エリザベス・デビッキだけは『TENET テネット』のプロトタイプのような役柄を見事に演じていた。
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