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人類遺産のTSのレビュー・感想・評価

人類遺産(2016年製作の映画)
3.8
【最も静かな映画】80点
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監督:ニコラウス・ゲイハルター
製作国:オーストリア/スイス/ドイツ
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:94分
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淡々と映像を見せつけるニコラウス・ゲイハルター監督は、ついに一切人間を登場させない映画を出してきました。90分ひたすらナレーション、BGMなしで廃墟を写し続けるこの作品は、サイレント映画を除けば最も静かな映画であること間違い無いでしょう。なので、フルパワーで鑑賞しないとうたた寝してしまうこと必至です。僕は廃墟マニアでもなんでもないのですが、寝起きに見たので逆に最後まで突っ走れました。

そもそも廃墟に何故魅力を感じるのだろう。昨今でも、書店の写真集コーナーには必ずといって良いほど廃墟の写真集があります。たしかに僕も興味本位で開いたりしてしまいます。流石に自分で足を運ぼうとまではいきませんが、どこか神秘的な何かを感じ取ってしまいます。恐らく、かつてその場所に人々が生活していた。というのを考えると切ない気持ちになってしまうからでしょうか。特に映画館やボウリング場などの、人がいれば賑やかになる場所ほどその気持ちは高まります。

さて今作は、一瞬何故ここが廃墟になってるの?というシークエンスから始まります。我々日本人は、恐らく少し考えれば勘付くのかもしれませんが、海外の人がこのシークエンスを見たらしばらくわからないでしょう。たった数年前まで人がいたはずなのに、たった数年放棄しただけで草木がこれ程生えてくるのですか。それから、この作品は延々と世界の廃墟を映していきます。日本の軍艦島も出てきますし、30年ぶりに湖から姿を現したアルゼンチンの幻の街、ヴィラ・エペクエンも映されています。これがどこの廃墟だという説明は一切ないので、予習しながら見るのも一つの手かも。僕は今作のDVDを購入したため、リーフレットがついていて、それを参考にしました。

それにしても今作の原題であるホモ・サピエンスは実に興味深い。何故ならホモ・サピエンスと言っているのに、そのホモ・サピエンス、すなわち人類は一切登場しないからです。我々が今見ているこの光景は過去の産物なのか、はたまた未来の光景なのか。これらの光景は紛れなく人類がつくりあげたもの。そして人類がこの世から消えても、意図的に破壊されない限りこれらの人為的な光景は残され続けるのです。適切な言葉が見つからないのですが、敢えていうならば、圧巻。でしょうか。今作には何とも言えないパワーが秘められています。

廃墟マニアか、フルパワーの人にしかオススメ出来ない一風変わった作品。人によっては廃墟を淡々と映すので不気味とさえ思えるかも。深夜にこれを見たのですが、たしかにちょっと不気味でした。でも、唯一無二の映画であるため、見るのもタメになるかもしれません。
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