ピロシキ

私はあなたのニグロではないのピロシキのレビュー・感想・評価

4.2
「歴史」という言葉の意味について調べると、Wikipediaにはこんなふうに書いてあった。

ー「歴史」とは、少なくとも二つの意味を有している。一つは、現実に存在する「もの」が変遷する様そのものを言い換えて「歴史」と定義するものである。しかしその経緯は保存されることは無く、やがて消える。もう一つの「歴史」の意味は、この消え行く変遷を対象化して記述・記録された結果を指し、「歴史記述」と言うことができる。

アメリカにおける人種差別の「歴史」が前者であるならば、この映画はその「歴史記述」という、後者としての機能を十分に果たす。まるでアメリカ人種差別概論という名の講義を受けているかのような90分の間に、白人は愉快に歌って踊り、黒人は殴られ殺され木に吊るされる。「向き合うことから、変化は始まる」という黒人作家ジェームズ・ボールドウィンの言葉の通り、目を背けたくなるような映像を容赦なく見せつけられた。

現実を憂いてばかりもいられない。そこで映画が導いたのは、ケンドリック ・ラマーという名の黒人ラッパーだった。2015年リリースのアルバム "To Pimp a Butterfly"は、まさしく「歴史記述」の傑作だ。過去は決して風化させない、彼らの闘争を世界に知らしめてやる、という段違いの気迫には、何度聴いても圧倒される。ボールドウィンの警告は、ケンドリックのような若い世代を通して、未来へと確かに受け継がれている。希望の星と、呼んでもいいだろう。いつの時代も「全てのニガーはスター」なのだ。
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