ブラックユーモアホフマン

散歩する侵略者のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.7
2021/06/13
4年ぶりにちゃんと観直してみた。
4年前、映画館で観たときはピンと来なかったんだけど、改めて観たら、めちゃくちゃ面白かった。傑作。

単に、当時僕が求めていた黒沢清映画と違ったってだけの話。浅はかでした。当時よりももう少し、より黒沢清映画への理解が深まった今観たら、もう最高も最高。

最近考えていたのは、日本映画の幅の狭さについて。そりゃそれぞれの作家によって個性は様々、全然違うけど、それは映画ファンの高精細な見方でそう見えるだけで、正直、監督やスタッフの名前や経歴といった情報に全く興味がない人の引いた目で見たら、「人間ドラマ」と括られる日本映画なんて大体どれもおんなじように見えちゃうんじゃないかと。
ジャンル「人間ドラマ」を作る監督が沢山いること自体は悪いことではないと思うけど、例えばアメリカ映画はもっと映画のジャンルに多様性や幅があると思うなと思った時に、日本映画ってつまんねえなとちょっと思ってしまった。

そこで今日、これを再見して思ったのは、日本映画の中の娯楽映画のジャンルを今、担っているのは庵野秀明と黒沢清だけなんじゃないかと。アニメーションは除く。実写で。
無難にいい娯楽映画を撮れる監督や、インディーズの監督まで含めたらもう少しいるかもしれないけど、比較的規模の大きな企画の上でジャンル映画の新たな地平を切り拓いていける担い手という意味では。

改めて観てみると、この映画の前年公開の『シン・ゴジラ』とも通ずるものを感じる映画だったし、どちらも長谷川博己が最高なのも共通する。(本作の長谷川博己演じる桜井から、どことなく伊丹十三みを感じたりもした。)

これはもちろん原作の劇団イキウメ・前川 知大氏の発想の素晴らしさでもあると思うのだけど、日本映画で予算をかけられない時、どうやって宇宙人のインベージョンものをやるか。日常からジワジワと侵略されるという発想の転換。これがまず素晴らしい。派手なシーンはさほど必要でない。

そしてそのアイデアを映画脚本の形にした監督と田中幸子さんの仕事。これまた素晴らしい。一瞬にして引き込む掴みからして最高。そして概念を奪われた人たちがむしろ悩みから解放され自由になっていく前半。宇宙人になったことで崩壊していた夫婦関係が修復に向かっていく話と、野心的なジャーナリストと生意気なガキ宇宙人が意気投合するバディものの話とが同時進行で進む。『クリーピー 偽りの隣人』の時と同じ役だろとしか思えない、”メン・イン・ブラック”笹野高史がちょうど折り返しくらいのところで登場し物語が勢いを増す。鳴海にとっての理想の加瀬真治になろうとすることが、仕事である侵略よりも優先度が高くなっていく後半。また人の心などなさそうに見える桜井に次第に人間味が出てきて、世界や人類への未練が出てくる展開もアツい。そして”愛”が世界を救うラスト。ど直球ストレートと言えばそうだけど、感動する。『ワンダーウーマン』も思い出すような。バカみたいにベタだけど、でもそうだよ。

キャストが皆最高。長澤まさみの美しさ。一度は嫌いになった真治への愛が再び湧き上がって止められない可愛らしさ。松田龍平の宇宙人演技はピカイチ。イノセントを演じさせたら右に出る者なし。山下さんの『ぼくのおじさん』も可愛いのでオススメ。高杉真宙、恒松祐里の憎たらしさ、でも憎めなさ、も良い。光石さんのセクハラ演技も絶品だし、笹野さんは出てくるだけで嬉しくなっちゃう。児島は出てくるだけでアンジャッシュのコントになってしまう。

やっぱり分からないのはこの東出昌大は『予兆』の東出昌大と別人なのか同一人物なのか……。『予兆』で死ぬので別人な気はするんだけど、同一人物だとしたらそれはそれでアツいと思うのは、彼は愛の概念を学んで侵略者としては失敗した、実はその第一号だったんじゃないか。それで教会で働き出したんだとしたら……。

黒沢清映画の色んな夫婦。みんな似たような関係性な気がするけど、どのカップルもいい。『トウキョウソナタ』の香川照之と小泉今日子、『リアル 〜完全なる首長竜の日〜』の佐藤健と綾瀬はるか、『岸辺の旅』の浅野忠信と深津絵里、『クリーピー 偽りの隣人』の西島秀俊と竹内結子、『スパイの妻』の高橋一生と蒼井優。

林祐介さんの音楽が素晴らしいんだよなあ!!長岡さんを劇伴デビューさせた功績はあるけど、正直『スパイの妻』も林さんで良かった気がする。

『スパイの妻』も初見はピンと来なかったけど、見返したら多分恐らくきっと、面白いと思うんだろうなあ。いずれ見返します。

===
2017/09/14 ★3.8
黒沢清映画を観ている時にいつも感じる、ゾワゾワーッとしてニヤニヤーッとしてしまうような感覚があまりなかった。

リアルやクリーピーなんかも、かなりとっつきやすい作品だけど同時に黒沢さんのセンスが滲み出まくっていて、慣れてない観客は面食らうような映画になっていたけど、今回は歩み寄り過ぎたような感じがした。もっと変でも良かったのに、と。
黒沢清映画の登場人物って、マトモな人がほとんど出て来なくて、マトモそうに見える人も明らかに変な事象を変だと感じてないのがすごく変で面白いところだけど、今回はマトモな人がちゃんとマトモで、ちゃんと変なことに変だと感じてくれちゃうから、分かりやす過ぎる。
だからか、いつもならゾワゾワしてニヤニヤしてしまう、"変"な描写ももっと単純にギャグになってて、単純に笑えた。
エンタメに振るなら、正直、山崎貴監督の『寄生獣』の方が面白かった。黒沢監督の作品なら、もっとそれとは違う面白さを感じたかった。
結末も、なんだそんな終わり方なんだって、陳腐だと感じてしまったし、ちょっと全体的に拍子抜けでした。

でもそんな簡単に面白くなかったとか言っちゃいけない気もしてる。単に自分が理解できてないだけだという可能性は大いにある。事実、意味が分かってない所もある。

松田龍平は普段から人間っぽくないから普段通りなのに侵略者っぽくて笑った。長谷川さんの演技はやっぱり良い。ちょっと大袈裟な演技がどこか胡散臭さを醸し出すんだけどそれがフリージャーナリストという役にぴったりで、人類にも宇宙人にも肩入れし過ぎない桜井というキャラクターは魅力的だった。最後は人ならざる者になってたな。笑 あの時中身はどっちだったのかは解釈分かれそう。
ラブホのシーンは、変だったなー笑
音楽がすごく良かった。