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散歩する侵略者のdm10foreverのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
3.9
「ある視点」

この作品はカンヌ映画祭の「ある視点」部門に正式出品されたことが話題となったが、その意味がよく分かる作品だった。

ある日、異星人が地球を侵略するために人間の体を乗っ取り、人間の概念や能力をスカウティングしたうえで攻撃を開始するという荒唐無稽なストーリー。
地球侵略が目的の割には、日本の、しかも関東にしか現れない宇宙人。
さらに姿も形さえも映ることはなく「目に見えない存在」として人間に迫る。

そう「見えないもの」「理解できないもの」の象徴として「宇宙人」なのだ。

それはまるで、現在の混沌とした日本の価値観や閉塞感、世代間のギャップなど、様々なものへの強烈な皮肉ともとれる。

いつの時代も大人は若者の言葉が理解できない。僕の父親がそうだったように、僕も今の若者たちの言葉がだんだんわからなくなってきた。言葉は時代とともに進化するのもだと思うし、別に相手と意思疎通が取れるなら、最低限の役割は果たしているわけだから、個人的には「言葉の乱れが!」などと目くじらを立てるつもりもない。そういもんだと思っているから。

でも、その意思疎通が取れないとなるならそれは問題だ。だって、何を言っているのか理解できないんだから。そういう表面的な言葉のやり取りの中で、その奥にある「概念」を知りたいという至極当たり前の欲求を「宇宙人」に持たせたところが面白い。
本当は「慇懃無礼」だの「社交辞令」だの、よく言えば奥ゆかしさとでもいうような「日本の美徳」とされている『まどろっこしさ』が、実はお互いの理解を妨げている。
だったら指先一つで相手の心理を理解できるならこんなに楽なことはない。
そして宇宙人が人間、特に日本人が最も表現を苦手とする「愛」の概念を知ってしまったことで変化が起きるという結末もシュールだった。

それは一組の夫婦の関係の描き方として、とてもリアルでシニカルだった。
お互いの間に吹く隙間風を「宇宙人」と「人間」という立ち位置で描くことで、どこかコミカルでありながらなかなか理解しあうことのできない微妙な夫婦関係の距離感がうまく描けていた。

ストレートに観れば「宇宙人」「地球侵略」というSFがテーマだけど、裏ではものすごくリアルな現実社会への皮肉を忍ばせた作品であったと思う。
そう「ある視点」から観るとこんな感じとでも言わんばかりに。


追伸・・・。
この映画って、長澤まさみを愛でるための映画ですよね(意味深)
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