カツマ

散歩する侵略者のカツマのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.0
日本映画でここまでカルト感を出してくる作品も珍しい。設定は宇宙人が多数暗躍するウルトラセブンのいくつかのエピソードを想起させるが、そこに人類への挑戦状ともいうべき内面への問いかけが、大きな命題として横たわっている。欠落することで逆に人間らしくなるシーンには、そもそも人間とは欠落の取捨選択が出来ていない宇宙人なのだということを痛感させられた。愛を備えることで人間は人間らしくなる、ということをダイレクトに伝え、人類の長所と短所を宇宙人というフィルターを通して描いた作品だ。

倦怠期を迎えていた夫婦の鳴海と真治。だが、出張に向かったはずの真治は別人のように呆けて帰宅し、鳴海の手を煩わせる。真治はアルツハイマーか、脳の病気なのか判然としないまま、2人は夫婦生活に戻るも、真治の様子はやはりおかしい。一人で外出しては人の『概念』を奪うと言うのだ。
時を同じくしてジャーナリストの桜井は宇宙人を名乗る青年天野と出会う。天野の言葉に訝りながらも、桜井は協力を承諾し、地球の侵略を企む宇宙人と行動を共にすることになるのだが・・。

概念を奪う、という設定がかなり面白く、それがこの作品を哲学的なSF映画に仕立てている。人間の愚かさや醜さを自虐的に見せながらも、人類の前に横たわる課題をも提示した。迫り来る大自然の恐怖を重ね合わせ、そこから立ち上がる人類の力強さも感じることが出来る。
この映画は何本かの多義性を持っていて、ラストシーンにもその意味を見出せる。一つの概念に縛られない、正に人類の内面そのもののようなスタイルが貫かれた異色のSF映画だ。キャスト陣の演技も素晴らしく、もっと評価されてもいい作品かと思いました。
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