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散歩する侵略者のymdのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.6
クセが強く歪さが不気味さを醸し出す黒沢清フィルムの中でも、最もソフィスティケイトされた作品。でも黒沢映画らしさは寸分も損なわれておらず、非常に風変わりな映画です。

個人的には好きしかない!と思わせるほど好みにジャストな傑作。
日本でできる(あるいは日本にしかできない)SF映画としてこれほど素晴らしい設定は無いと思うし、SFモノとしての骨格の上にホラー、サスペンス、アクション、ドラマ、コメディ、ラブロマンスと様々なジャンルを肉付けしていき、あえて過剰にしたり削ぎ落としたりすることで生まれるアンビバレンスが奇妙な後味を残します。

映画としての方向性は名作『CURE』に近いかな。あっちはかなり不穏でゾワゾワするホラー寄りだったけど、こっちはもっとコメディ寄りというか。テーマもこちらの方がずっとピースフルでロマンチック。

崩壊した夫婦の再生というミクロな物語を、宇宙人の侵略というマクロな世界を使って描くというのも素晴らしい。これぞ映画の醍醐味という感じ。

黒沢組の役者たちも皆好演で気持ちがいい。今となっては東出昌大が松田龍平に愛とは何かを説くシーンが妙な悲哀を孕んでいて笑い泣けたりもする。

個人的に一番グッとくるのは長谷川博己のラストシーン。彼の最後の行動は、果たして憑依されたあっち側のものなのか、それとも彼そのものによるものなのか。

自分とは何?という問いを繰り返していたカットがフラッシュバックしながらそんなことを考えている。

個人的には邦画で最高だと思っているのは同じ黒沢清の『アカルイミライ』なんだが今作も同じくらい最高!
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