マクガフィン

8年越しの花嫁 奇跡の実話のマクガフィンのレビュー・感想・評価

8年越しの花嫁 奇跡の実話(2017年製作の映画)
3.4
岡山県のあるカップルに起こった実話を基にした奇跡の奮闘記。

タイトルから涙腺催促映画かと思いきや、エモーションを振りかざさずに、淡々と日常の描写を積み重ねる丁寧な構成と抑制されたテイストは好みで、壮絶な運命に直面した人々が、運命と対峙し寄り添いながら支え合って変えていくことに心が揺さぶられる 。

「64」では作品と役者や役者間の演技に隔たりがあったが、今作は作品のテイストと役者の熱量に隔たりがない演技が良く、特に主演の佐藤健の細かな心情を表す演技が静かに自然体で抑制されて作品に確かな説得力を加える。「何者」から演技が一皮剥けたことを感じる。

ゆるやかな風景を織り交ぜることで心情時間の流れを描写したり、デジタル表示のカレンダーの日にちを進める手法や、睡状態時にも脇役の結婚式や、記憶を取り戻すために過去に訪れた美しき景色がアクセントになり、時間の経過が把握しやすい構成は、作品と時間の重みが理解しやすく作品に没頭できる要因に。

佐藤と土屋の両親に対する血縁の違いも良く反映され、佐藤の渾身的で様々なサポートが家族並の無償の愛を焙り出し、両親との絆を深めていくことで夫婦だけでなく家族に向かう成長譚にも。

タイトルに「8年間」とあるので、意外に早い目覚めに驚いたがリハビリ期間が長く、これから幸せに向かうと思いきや意外な心情転換に。昏睡状態やリハビリの喋らない時は平静だったが、喋れることで佐藤の記憶が全くない状態がわかり、土屋のことを思うが故に佐藤の葛藤が極限に達する展開が心苦しい。

撮影有無が確認できない病人に対して携帯動画や写真で昏睡状態やリハビリの日々の記憶を残すのは不謹慎だと思っていたが、これが両者の記憶と時間の仲違いを綴る結果になり驚くとともに納得する。

タイトルに関連する結婚式のキャンセル問題などがドラマ的で実話を基にしたか疑問なことと、佐藤の孤独感や虚無感の描写が少ないのが残念だが、佐藤や家族だけでなく周囲を取り巻く人々の温かな思いも投影され、難病に立ち向かい、寄り添いながら次第に強くしなやかな夫婦と家族になっていく模様に心が浄化されるような感銘を受ける。