あーさん

ターシャ・テューダー 静かな水の物語のあーさんのレビュー・感想・評価

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ターシャ・テューダー生誕100年

🍀静かな水の物語🍀

なかなかレビューできないでいた作品。。
スコアレスは矢野顕子のドキュメンタリー以来。
ターシャは私にとって、あまりにもパーソナルな存在過ぎて…うまく言葉にする自信がなかった。

ターシャ・テューダーはアメリカを代表する絵本作家であり、素晴らしいガーデナーであり、あらゆる生活のクリエイターだと私は思っている。
ターシャの創る花束は、大好きなフローリストの高橋永順や橋本不二子(Fujico)の絵を思わせる。
共通点は、大胆でナチュラルで、そして美しい所。

彼女のことを知ったのは、かなり前…。    2005年放送のNHK番組「喜びは創り出すもの」を観たのが初めてだったか、少し記憶が曖昧。

はっきり覚えているのは、当時小学生だった上の息子がすっかりターシャに魅了された私の誕生日に「ターシャ・テューダーのガーデン」というほぼ写真の大判の本をプレゼントしてくれたこと。
たくさん出ているターシャの本の中でも一番素敵で ”ほしいな〜”とアナウンスしていたけど、三千円以上する本は自分でもなかなか手が出なかった。
どういう経緯か忘れたが、お小遣いを何ヶ月分も貯めて買ってくれたのだと思う。この子は高くても人が本当に欲しいものをあげようという感性を持った子なのだと驚きと嬉しさで一杯になった。
反抗期のひどかった時は、その本を取り出して見ながら泣いたこともあったっけ…。本当は優しい子なんだ…と心に言い聞かせて、ターシャの写真や言葉に癒された。

ガーデニングは好きだけど、転勤生活ゆえ主に植物女子ベランダー(笑)。都内に住んでいた数年は小さな庭付き一戸建て賃貸住宅に住んでいたので、ちょっと色々頑張った。畑を借りて友人と野菜を作ったり。子ども達もあの頃の家が一番好き、と時々言う。
今はマンション住まいなので手を広げず細々と、やっぱりベランダー。
花殻摘みが好きなターシャ。実は私も気づけばすぐ花殻摘みをしてしまうタチなのでよくわかる。
手入れの行き届いた庭を維持するのがどれだけ大変か。。少しでもかじったことのある身なら広大なターシャの庭を見れば、それが一体どういうことなのか、一目瞭然だろう。

上流階級の出身でありながら、自分の出自とは全く違う農業の道を選んだターシャ。単に好きだというだけではなく、ライト兄弟と肩を並べる設計・製造技師の父、肖像画家の母という著名で多忙な両親のもとで、主に乳母に育てられた彼女は思う所があったのかもしれない。
早くに結婚するも元々生活力に乏しく、一緒に農業をやっていく志がなくなってしまった夫と離婚、絵本作家をしながら女手一つで4人の子を育て上げるのは、想像以上に大変なことだったと思う。
でも、自分の選び取った暮らしの中で季節の移ろいを感じながら一つ一つの営みを楽しみ、ものを作り、生き物を育てる生活は彼女の喜びであり、生きていくことそのものであった。

残念ながら2008年に92歳で亡くなってしまったが、大きくなった子どもや孫達が晩年の彼女に寄り添って、一緒に年中行事を楽しんだり、コーギコテージの保全に務めるという理想的な生活を送ったターシャ。特に母の為に18世紀の家を再現して建てた、常に母を支えた長男のセスの存在は大きいと思った。

しかし、決して平坦ではなかったはずの彼女の生き方は、予想外に思った通りにならない子育てや息苦しい都会暮らしの中で、ともすれば自分を見失いそうになった時、私の大きな道しるべになってくれた。


過ぎた日々をすべて肯定できる人になりたいと最近、特に思っている。

たくさん心に響く格言の中でひと際残る、
”静かな水のように穏やかであること。周りに流されず自分の速さで進むこと。”
というタイトルにもなっている言葉。

喜びも悲しみも大げさにせず、水が流れるように受け入れて自分らしくあり続ける…

そんなシンプルで力強い生き方を私もしていきたい…とエンドロールを名残惜しく観ながら、強く強く、思った。




*ドキュメンタリー映画としても秀逸でターシャの魅力、ガーデンの美しさをこの上なく堪能できる。スローライフ、心の豊かさを味わいたい方に♡
あーさん

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