akrutm

真白き富士の嶺のakrutmのレビュー・感想・評価

真白き富士の嶺(1963年製作の映画)
4.3
白血病を患いながら退院して逗子の自宅に戻ってきた少女の純愛と、彼女を優しく見守る姉の心情を描いた、森永健次郎監督のドラマ映画。太宰治の短編小説『葉桜と魔笛』が原作となっているが、この小説そのものは妹に届く手紙に関する話だけであり、それ以外の部分は本映画の脚本として独自に肉付けされたものである。

白血病で若くして亡くなってしまう少女を演じた吉永小百合の演技は、やっぱり見事である。陽気に振る舞いながらも、同年代の若者たちと同じような生活ができないことへの苦悩や諦め、ふと出会った青年に心惹かれるときの心情などが、印象的に表現されている。さすが上手いよ、吉永小百合は。それだけに彼女のその後の私生活は本当にかわいそうであるが。

同時に、いやそれ以上に印象的なのが、姉を演じている芦川いづみ。ちょうどこの頃の芦川いづみは特に輝いていると、個人的に思う。同年に公開された『青い山脈』でもそうなのだが、元々の清楚さ・きれいさとともに、大人の女性としての落ち着きというか魅力も出てきていて、ため息が出るほど。病気の妹を優しく見守る姉という役がぴったりであるし、多くの映画で共演している(今でも仲がいいらしい)吉永小百合との息もぴったりである。本映画の主演は吉永小百合であろうが、ストーリー全体の語り手という点では、芦川いづみが主演と言ってもいいかもしれない、彼女のファンにとっては must-watch の作品であろう。いくら妹と言っても、他人の手紙を盗み読むのだけはいかんけど(笑)

ただ、浜田光夫が演じる男子学生と少女の関わりが中途半端なままに結末を迎えてしまったのが残念であった。確かに、この男子学生の扱いはとても難しい。少女が彼に淡い恋心を抱き、ちょっとしたやり取りもあるのだが、この話をもっと展開させていくと、原作本来のプロットである手紙の話と干渉を起こしてしまう。いっそのこと、この男子学生は登場させないほうが良かったのかもしれない。

また、これに関連して、本作のタイトルを『真白き富士の嶺』としてしまった理由もよくわからない。「真白き富士の嶺」というのは、逗子開成中学校の生徒12人が犠牲となったボート転覆事故の鎮魂歌の題名、さらにその事件を描いた1954年の映画のタイトルなのである。本映画の中でもこの歌の歌碑とともに男子学生が通う学校として逗子開成が出てくるが、男子学生を登場させるためにボート転覆事故と無理やりつなげたようにしか見えず、これらのプロットは消化不良のまま置き去りにされたように感じてしまった。

それから映画とは全然関係ない話だが、アマゾン・プライム・ビデオの画質が非常に悪い(解像度かなり粗い)のは大いに不満であった。明らかにDVDで普通に販売されている映像の画質ではないだろう。他の配信サービスに比べて、映画配信に関する細部がイマイチなのである。
akrutm

akrutm