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ぼくの名前はズッキーニのKKMXのレビュー・感想・評価

ぼくの名前はズッキーニ(2016年製作の映画)
4.6
 短い時間の中に濃い内容をギュッと凝縮し、無駄なく丁寧に作られた映画でした。ダラダラと冗長な映画よりもずっといいです。

 子どもたちの心情描写もさることながら、とても印象に残っているのは、養護施設のスタッフやレイモンといった、彼らに関わる大人たちの態度でした。価値観を押し付けず、ふわっと包み込むように子どもたちに接しているように感じました。

 ズッキーニやシモンといった施設の子どもたちはひどい傷つきを体験してきているため、人をなかなか信用できないのではと想像します。しかし、彼らを囲む大人たちの態度が作り出す雰囲気が、子どもたちが本来持っている自己治癒力を引き出し、自然と友情を深められたのでは、と思いました。
 雪山に行った夜に、コテージをクラブにしてみんなで踊ったシーンが特に印象に残っています。一緒に楽しむムードが素晴らしいです。夜の遊びを自然と取り入れることができるのはやはりお国柄だろうか。日本でもあんな風に遊べたらいいのにね。

 このような大人の守りの中で、孤独な少年ズッキーニは同じく傷を負った孤独な子どもたちと友情や恋を経験していきます。そのプロセスが実に丁寧かつ誠実に描かれておりました。
 お互いの傷を知っていく。それが軸となって自然と連帯し、孤立して生きていた子どもたちが、ひとりではないと実感していく。その姿に感動しました。

 特にシモンとズッキーニの友情はグッときました。あのくらいの歳で友情を育めたのは宝です。特に愛情に裏切られた子どもたちだからこそ、かけがえのない出会いだったと思います。
 シモンは侠気があって良いキャラですね。カッコいいし。彼は終幕近くで痛みを抱えますが、あれは大人でもなかなかできないと思います。ラストは不平等なリアリティが顔を覗かせますが、シモンの態度が物語を高みに上げていると感じました。彼の態度は彼自身をグッと成長させたと思います。

 ストップモーションアニメはとても繊細でキャラクターはおしなべてキュートでした。音楽も素敵。居場所を作っていくメタファーとしてたびたび挿入される鳥の巣作りも上品です。カミーユがカフカを読んでいたり、金髪のコがカミーユとの出会いで前髪が払われたりと、ディテールも丁寧で意味があると思います。
 なので、本作はかなり非の打ち所がない、完成度の高い作品ではないしょうか。もう少し話題になってもいいのでは、なんて感じています。
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