Kuuta

Michael Moore in TrumpLand(原題)のKuutaのレビュー・感想・評価

3.0
マイケルムーアのヒラリー応援演説会を映像化しただけですが、必死に訴える監督と、色んな反応を見せる聴衆のドキュメントではあります。

いつも以上に数字などの根拠は少なく、客観的な他者のコメントも皆無なため、より独演会感が強まっていますが、意外にもトランプ批判はかなり抑えめ。
トランプ支持者を慮り、ヒラリーのダメさにも触れつつ、それでもヒラリーがベターな選択だと、時にユーモラスに、時にまじめに語りかける。こうした話術は監督の過去作のトーンと同じです。それに対し、泣いてる人もいれば、無表情な人もいる。

今作は人種の人口比などからアメリカの縮図と呼ばれ、大統領選の必勝区とされるオハイオで撮影し、開票の2週間前に滑り込みで公開されました。
どうもヒラリー劣勢を予期していたような監督の熱の入れ具合、危機感が伝わってきます。

印象的だったのは2箇所。
一つはトランプ支持者の分析で、これまでの政治によって阻害され、システムにファックと言いたい人が、金持ちと変わらない平等な1票を、渾身の思いで投票するだろう、という話。
マイケルムーアは自分も含め、白人の中年男性が減っていて絶滅しそうだとジョークを飛ばしていましたが、こうしたトランプ支持層による、リベラルへのバックラッシュをどこかで予期していたようにも聞こえました。

もう一つがヒラリーの生い立ち。戦争を経験した母を持ち、ゼロから戦い抜いて権利を勝ち取ってきた最初のフェミニズム世代だ、との指摘。「彼女はずっと耐えてきた」。批判されたファーストレディ時代を振り返りながら、マイケルムーアは聴衆に彼女を支えるよう促します。今回ばかりは彼女のために立ち上がらないと、と。

しかしながら、結局ヒラリーはオハイオで大敗しています。

今回改めて思ったのは、ヒラリーが「古い嫌味な政治家」かつ「ポリコレおばさん」という括りでバカにされていたんだろう、ということ。リベラル派が多かったであろうこの演説会場ですら、その空気は感じました。
当然、「型破りなビジネスマン」で「差別的なおじさん」であるトランプ陣営からすれば、対立候補との違いを国民にアピールしやすかったのは間違いない。お行儀の良いヒラリー応援発言をハリウッドセレブがするほど、逆効果になっていく状況。
そう考えると、バーニーサンダースが負けた時点でトランプに流れは傾いていたのかも、と思いました。

こんな風に、見てから色々考える事もできるので、結果が出た今振り返っても十分面白い作品です。60点。
Kuuta

Kuuta