ハル奮闘篇

夜は短し歩けよ乙女のハル奮闘篇のレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
4.6
【 舞台である京都のロケ地?を聖地巡礼したくなる! 幻想的でポップで愉しくてほっこりする大人のアニメーション 】

 静岡→神奈川と移住したものの、聖地 西宮市のみならず広く関西圏に対して強い憧憬をもつ、わたくしハル奮闘篇であります。
 先日、京都にお詳しいレビュアーさんたちとの会話の中で「実は京都が舞台の、大好きな映画があって、その聖地巡りをしたい!」とハルが切り出した流れで、この映画をレビューすることにしました。


【 まずは、四畳半神話体系 のこと 】

 「私とて誕生以来こんな有様だったわけではない。生後間もない頃の私は純粋無垢の権化であり、光源氏の赤子時代もかくやと思われる愛らしさ、邪念のかけらもないその笑顔は郷里の山野を愛の光で満たしたと言われる。それが今はどうであろう。鏡を眺めるたびに怒りに駆られる。なにゆえおまえはそんなことになってしまったのだ。」

 これは森見登美彦の小説「四畳半神話体系」の冒頭近くからの一節。自分の幼少期を語るくだりです。ちょうど図書館から借りて、いま僕の手元にあります。なにやらむつかしい言葉が並んでいますが、文体が堅苦しいと感じるのは読み始めてほんの十数頁。慣れてしまえば、テンポがよくポップで可笑しく、わかりやすい青春小説です。
 
 「輝かしいはずの京都の大学での2年間を、奇妙なサークルに入り、曲者ぞろいの人々に関わったおかげで無為に(恋ナシ、学問ナシ、肉体鍛錬ナシ)過ごしてしまった青年の苦悩」を描いた“コメディ”で、大変面白いです。

 このテレビのアニメーション化の際に監督したのが、近作に映画「犬王」やテレビアニメ「映像研には手を出すな!」などがある湯浅政明です。

 
【 そして、夜は短し歩けよ乙女 のこと】

 さて、この原作 森見登美彦、監督 湯浅政明のコンビによる2017年の劇場用長編アニメーション映画がご紹介する「夜は短し歩けよ乙女」。(こちらの原作本は所有しています。)

 主人公の青年「先輩」はこれまた京都の大学生。もうひとりの主人公である後輩「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せ、たびたび街角で待ち伏せては、“偶然の出会い”を演出することで“運命の赤い糸”と感じさせようという目論見も、彼女には「あ、先輩。奇遇ですねえ!」のひとことで済まされてしまうという気の毒さ。

 原作は四章から構成されていて、春(夜の街の飲み歩き)、夏(神社の古本市)、秋(学園祭でのゲリラ演劇上演)、冬(風邪が大流行、乙女以外のみんなが寝込む)というエピソードの中で、先輩、乙女、これまた曲者ぞろいの人々が織り成すドタバタが描かれているのですが。

 それを、このアニメ映画では、なんと「長い長い一夜の出来事」として描いているのです。これは力業!快挙か暴挙か。原作のもつ、どこか幻想的な雰囲気が 「ぜ~んぶ同じ夜」とすることで極まります。

 「四畳半神話体系」にも登場した大学の8回生「樋口先輩」ほか、これまた曲者ぞろいの脇役たちに翻弄される「先輩」と「黒髪の乙女」の恋の行方や如何に!

 膨大な量のナレーションと、押し寄せてくるエピソードの数々が、独特なテンポの良さを生みます。絵のタッチも音楽もポップでカラフル。声優は「先輩」に星野源、「パンツ総番長」にロバート秋山。不思議で楽しくてほっこりする、大人のためのアニメーション映画です!