Inagaquilala

夜は短し歩けよ乙女のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
3.3
期待値が高いと、失望も大きい。残念ながら、この作品、自分的にはそういう区分けの中に入ってしまった。原作はもちろん読んでいる。恋愛小説やユーモア小説というよりも、一種のファンタジー小説なのだが、森見登美彦氏の卓越した筆力のなせる技か、原作はディテールが詳細に書き込まれ、まるで目の前でそのような奇想天外なことが起こっているかのように読むことができる。

例えば、李白老人が乗ってくる3階建ての乗り物なのだが、ほんとうに先斗町の狭い道をこの山車のようなものが、やってくるかのように描写される。しかし、このアニメーションでは、先斗町の場面でもっともスペクタクルなこのシーンが、かなり雑に描かれている。乗り物の全体像はおろか、装飾物など大幅に間引かれている。

このディテールの簡素化は、実は、作品全体にもわたっており、制作費の問題なのか、手間暇の問題なのか、はたまた技術的な問題なのか、かなりあっさりした「白」が目立つ絵となっている。

キャラクターの原案になったイラストレーターの中村佑介氏の絵はことのほかディテールがしっかりしている。せっかくこの才能あるアーティストの絵を原案とするならば、もう少し細部にこだわった絵づくりを強く望みたいところだ。

また森見登美彦氏の小説もディテールの描写に命が宿る作品なので、この簡素化というより、ほとんど「手抜き」は残念でならない。

それと、この原作小説の物語の肝は、先輩の「ナカメ作戦」にある。「ナカメ」とは、「なるべく、彼女の、目に留まる」に由来するネーミングだが、この部分が全体的に物足りないように思った。先輩と乙女が交互に語るという、原作の語りの形式を生かして、この「ナカメ作戦」を中心にもう少し焦点のしっかりした物語にできたようにも思う。

あと原作では季節にわたる物語であったのだが、その歳時記の部分は抜きにして、一夜の出来事としているが、この設定がそもそもディテールを破壊している。何故そうしたのか、大いに疑問は残る。

せっかくシネコンの大スクリーンで観たのに、作品自体がテレビの枠を超えていないのが、とても不満だ。このところアニメーションで良質な作品がたくさん出てきているだけに、ちょっとその流れには乗り切れていない作品の出来だ。

はやこの原作小説が刊行されて10年経つ。いろいろ紆余曲折はあったのかもしれないが、このアニメーション映画化の報が出てからというものかなり期待を持って待ち望んでいただけに複雑な思いがする。そして、次はこの原作を実写映画化するような勇気ある映画人はいないかと、また懲りずに大きな期待をしてしまうのである。あまりにもこの原作小説を読んだときの衝撃が大きかったので。
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