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夜は短し歩けよ乙女のKeithKHのレビュー・感想・評価

夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)
4.0
狂気の鬼才作家・森見登美彦による累計130万部超のベストセラーのアニメ映画化です。京都の同じ大学出身の、やはり奇天烈ストーリーテラーにして多くの作品が映画化されている万城目学と異なり、彼の作品の映像化が全てアニメである所以は、その常識からの逸脱度合いが古今無双、且つ驚天動地であるからでしょう。
特に彼の作品では、お馴染みの人物や事物、動物が常に京都を舞台に暴れ回りますが、本作は将にその象徴的作品でしょう。

嘗ては百鬼夜行が悠々闊歩し、魑魅魍魎が跳梁跋扈して人を誑かし祟り殺めた平安の京。今や妖怪変化は疾うに淘汰されたものの、今も漂う残香の妖気に誘われ奇々怪々な人々が集う京洛の地。其処に、数多の奇想天外、荒唐無稽な人々を従え、天衣無縫の主人公・乙女が、酒を嗜み宴に興じ、自ら珍事に突入して事件を増幅させ拗らせる、天真爛漫にして実に無邪気で破天荒な、京都のたった一夜の波瀾万丈の出来事を綴った物語です。
森見作品お馴染みの三階建て叡山電車、赤玉ポートワイン、偽電気ブランも色を添え、物語は益々混迷の度合いを深め、作者自身が認める行き当たりばったりの展開による収拾のつかない混沌状態の中、何だか無事大団円のエンディングを迎えます。

ともかく実写では到底映像化は不可能でしょう。舞台となる先斗町、木屋町、糺の森、宝ヶ池で、あれほどの想像を絶する装置や大乱痴気バカ騒ぎは実演出来ないでしょうし、中でも最大の見せ場となる京都大学・大学祭11月祭での数々の傍若無人なパフォーマンスのリアルな描写は、アニメとはいえよく大学が認めたものだと感心してしまいます。
或る意味でさすが反骨精神に富んだ京都大学ならではの伝統なのでしょうね。

70年代に活躍した久里洋二のアニメーションにも似た平板な画調は、却って幻想的で浮世離れした作風に合致していたと思います。また作品を通しての暗く艶めかしいコントラストと色調は、妖しい夢幻の美と雅な侘び寂びの美を感じさせてくれます。

或る程度の予備知識がないと、ストーリー展開が不愉快になる人も多いかもしれません。出来れば小説を一読されることをお薦めします。
KeithKH

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