Inagaquilala

メアリと魔女の花のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

メアリと魔女の花(2017年製作の映画)
3.9
米林宏昌監督はこの作品で見事にスタジオジブリの軛から抜け出した。「借りぐらしのアリエッティ」、「思い出のマーニー」とスタジオジブリで監督した米林宏昌だが、今回の作品はスタジオジブリ退社後、初めて手がける作品で、同じくスタジオジブリ出身の西村義明プロデューサーが設立したスタジオポノックからの長編第1作。

物語の設定といい、キャラクターの造形といい、これまでより鮮明に米林ワールドが打ち出されている。米林監督の最高傑作と言ってもいい。

原作は、前2作と同様、イギリスの作家によるもの。ちなみに「借りぐらしのアリエッティ」はイギリスの児童文学者メアリー・ノートンの「床下の小人たち」、「思い出のマーニー」は同じくイギリスの児童文学者ジョーン・G・ロビンソンによる同名作品、そして今回の「メアリと魔女の花」はイギリスの女性作家メアリー・スチュアートが児童向けに執筆した「The Little Broomstick(小さな魔法のほうき)」が原作となっている。

「借りぐらしのアリエッティ」では、小人たちに対する人間の名前が日本人の名前になっていたり、「思い出のマーニー」では、舞台設定は架空の村となっているが、そこで展開される風景は北海道の湿地がモデルとなっていたりして、イギリスというよりもどこか日本的風景を感じさせるものがあった。

今回の「メアリと魔女の花」は、メアリという少女が森で「夜間飛行」という花を見つけて一夜限りの魔女になるという物語だが、いわゆる「日本的」なものからはいっさい切り離されている。

登場人物の名前はもちろんすべて外国名。メアリが住む赤い館にも、魔女の花を見つける深い森にも、そして天空に浮かぶ魔法の大学にも、日本的風景はまるで感じられない。ディテールにこだわる米林監督の世界がそこではこれまでより自由に縦横無尽に展開されているような気がする。

あえて観客に馴染みやすい「日本的」なものを排して、作品をつくるというのはかなりの冒険だとは思うのだが、スタジオジブリを出て、米林監督は勇敢にもそれを実行している。たぶん、より自分がこだわるものへのチャレンジだということだろうし、それはこの作品を観る限りは成功しているように思う。

展開される主人公メアリのキャラクターは時に少々煩くも感じるのだが、これがかえって新鮮に感じるし、「悪役」であるマダム・マンブルチュークとドクター・デイのキャラクター造形も素晴らしい。ドクター・デイがつくり出した魔法をかけられた奇妙な動物たちも、不謹慎だがかなり楽しめた。

そして、何よりも魔女には空飛ぶ箒が付き物だということを、ひさしぶりに知らされたような気がする。米林宏昌監督のスタジオジブリ独立第1作だが、ラストクレジットには謝意を込めて「宮崎駿、高畑勲、鈴木敏文」の3氏の名前があったことも記しておこう。
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