horahuki

いぬやしきのhorahukiのレビュー・感想・評価

いぬやしき(2018年製作の映画)
3.4
思ってたよりも遥かに面白かった!!

ウリにしてる空中バトルが邦画とは思えないほどカッコイイ!重力がどっちに働いてるのかわかんなくなるような側面立ちとか、高層ビルの合間を縫うような追いかけっこは確かに映像トリップと言ってもいいくらい(ちょっと言い過ぎな気もするけど…)高揚感がありました。

そんで獅子神くんをとことん追い詰めるメディアだとか、新しいオモチャを与えられたかのように騒ぎまくるネット民がマジで胸糞に描かれるもんだから、社会に牙を剥くシーンが爽快で、獅子神くんガンバレ!ってなっちゃう。

家族からはぞんざいに扱われ、会社ではミスを連発し年下の上司から怒られてばかりいる冴えない初老のサラリーマン犬屋敷。
貧しい母子家庭で育ち、学校では寡黙で孤独。周囲からは何を考えてるかわからないと言われるイケメン高校生獅子神。

キャラクターとしては非常に似通っている2人。両者とも社会から除け者にされた心の孤独を抱える者であり、また自分の命を賭してでも誰かを守りたいと考える者でもある。ただ犬屋敷の場合は自分の能力不足と不器用さからくる爪弾きであり、獅子神の場合は、両親の離婚等の自らの与り知らぬ大人の都合に起因しているように思える。

だからこの2人は似て非なるもの。本質は極めて近いものであるにも関わらずその境遇が大きく異なる。能力不足・不器用さを自覚する犬屋敷は社会に対する恨みはなく、ただただ自分を呪う。一方、自分の責任ではなく周囲の人々の都合により追いやられた獅子神はその呪いの矛先を敵である社会へと向ける。自分を呪う犬屋敷と他者を呪う獅子神。能力を手にした2人の行動は全く逆の方向を向いてはいるけど、うまくいかない現実を抱えた者の虚構世界からの悲痛な叫びという点では同じ。

こっからウダウダ言うてるのでスルー推奨です。

獅子神の抱える呪いの描写が流石に薄すぎると思う。漫画もアニメも見てないから知らないけど、最初の殺人に至るまでの動機がイマイチ見えて来ない。自分が抱える呪いを他者にぶつけるにいたる必然性を描かないとただの異常者と変わらないことになる。

最初の殺人は虚構の力を手に入れた獅子神の社会に対する最初の爆発であり、今まで社会の除け者にされた獅子神がさらに社会から排除されていくきっかけとなる非常に重要な意味合いを持つシーンでもある。だからこそ、そこに至る呪いの強大さが描かれてないといけないと思う。中盤以降、言い訳的にセリフで色々語られたりするわけだけど、こびりついた異常者というレッテルを剥がし、正義の執行者である獅子神というキャラクターの魅力を肉付けするにはお粗末な気がする。

そしてこの2人のバトルは、近しい人間のみを守ろうとする獅子神と全てを守ろうとする犬屋敷の信念のぶつかり合いとしての意味合いも持ってくるわけだけど、ここでもそれぞれが抱える呪いの描写不足のせいで、映像のカッコよさは置いといて、表層的な普通のバトルになってしまっているような気がする。

信念と信念のぶつかり合いってめちゃくちゃ熱いはずなんだけど、ただのサイコパスと根っからの善人がバトってるだけの良くある正義が悪を倒す的な薄いものに見えちゃうんですよね。本当は信念に基づいた相容れない正義同士のぶつかりあいを描きたかったんだと思うし、中盤以降の展開は獅子神を追い詰める社会へのヘイトを高める意図だったんだろうと思うけど、根本にある呪いの強大さが描かれないからすごく表層的になってるように感じちゃう。

あと細かいとこだと、ここはアメリカか?ってくらい躊躇せず銃乱射しまくる警察?SAT?だったり、配慮がなさ過ぎるマスコミだったり。意図はわかるし、海外で上映すれば何とも思われないのかもですが、日本人にこんな異世界見せられてもね…。犯人特定までも早すぎだし、犬屋敷は何で疑われないのかもわかんない。

でも、映画館に行けば良かった…って思うレベルには楽しめました!
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