茶一郎

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルの茶一郎のレビュー・感想・評価

4.1
 トリプルアクセルに成功した一瞬、その一瞬という人生のピークを引き伸ばす映画の残酷さ。社会がフィギアスケーターに求める「女性像」の枠からハミ出してしまった女性の悲劇というか、魔女裁判の「魔女」に自らなりきった女性の悲劇。
いわゆる「ナンシー・ケリガン襲撃事件」でワイドショーを騒がせたスケーター、トーニャ・ハーディングの半生を描く本作『アイ、トーニャ』、トーニャの厳しすぎる母親を見事に演じ切りアカデミー助演女優賞を獲得したアリソン・ジャニーが話題ですが、それ以上に『ペイン&ゲイン』、そして『バリー・シール/アメリカをはめた男』に続く「アメリカ・トンデモ仰天ニュース」映画として非常に面白い一本でした。

劇中のインタビューで「この登場人物、全員バカの物語」と登場人物がこの『アイ、トーニャ』の物語を表現するという始末。本作『アイ、トーニャ』は、「トーニャが何故、襲撃事件に関与したのか?」や「トーニャはどういう人物なのか?」と頭に?マークを浮かべて劇場に訪れた観客に中指突き立てる、開き直り型伝記映画なのですから驚きです。
まず劇中に観客に向かって語る事件関係者の証言、加えて物語中に突然、観客に話しかける『フェリスはある朝突然に』、『デッドプール』さながらのギャグ、二つの要素が本作を「伝記映画」という枠からはみ出させます。監督を務めたクレイグ・ギレスピー氏は、元々、ラブドールに恋する青年を描いた『ラースとその彼女」で映画界に乗り出した人物。昨今は、生真面目な映画ばかりを撮ってきたギレスピー監督が元の得意な畑に戻り、伸び伸びとそのコメディ的才能を遺憾無く発揮理した作品が本作なのだと思います。

「アメリカには好かれる人と嫌われる人が必要」、「私を虐待していたのは『お前』だ」とトーニャは観客に向かって話します。この映画はトーニャの自伝を描いた作品以上に、アメリカについての映画であり、スキャンダルと大衆についての映画である事が強く浮かび上がります。結果としてトーニャは大衆のサンドバッグとなってしまった。これは昨今、日本の芸能界における不倫騒動についてのマスコミの異常なバッシングを思い出しました。
そして「真実」を求めて続けるフリをしながら、ただトーニャを殴り続けてきた大衆に突きつける「これが真実だ!」という中指!登場人物全員バカな映画は、私にとってとても爽快な強い女性の映画に置き換わっていました。
茶一郎

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