140字プロレス鶴見辰吾ジラ

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

4.1
GW映画12番勝負”第11戦”
※GW中に800レビューに届くのか!?

”ウルフ・オブ・スケートリンク”
「この女、デップー以上に壁を壊す!」

「タクシー運転手 約束は海を越えて」
「ボストンストロング」
と、感動的な史実を描いた映画が今年も順調に公開されているが、今作「アイ・トーニャ」は、バカしか出てこないフィギュアスケート界の世紀のスキャンダルを史実に基づき、さらにフェイクドキュメンタリーから、ご本人様映像から、第4の壁破壊まで投入して、陽気な音楽と哀れな者たちの愚行を、見事に完コピものまねの域を超えた面白おかしい映画としてパッケージングしている。

トーニャ・ハーディングを演じたマーゴット・ロビーのしなやかでパワフルな演技は、氷上の演技はスタントを使っているものの、本人が恐らく放っていたであろうスケートへの情熱を再現していた。カメラワークも後押しし、躍動感ある氷上のアクションも再現している。

そして忘れてはいけない、いや忘れられないのは、アカデミー助演女優賞を獲得したアリソン・ジャネイの毒親演技。汚い言葉にタバコを燻らせ、そして徹底したスパルタで我が子を追い込み野獣へと育てていく。「スリービルボード」のフランシス・マクドーマンのパワフルな演技も記憶に新しいが、アメリカン”ダーク”ビューティを体現したようなアリソン・ジャネイの演技にもひれ伏してしまう。

作品のテンションは、陽気な音楽と時に「第4の壁」を壊して観客へ問いかけや反応を求める、一種のギャグ漫画のような温度であるが、近年で言えば「デッドプール」をはじめ「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「マネー・ショート」で使われた手法を手際よく、愚行の物語の味付けとして見事にマッチさせている。むしろこの手の映画にはマーゴット・ロビーは付き物のような扱いにも驚かされる。

冒頭の架空のインタビューシーンから、テンポ良く主人公のハードな成長の物語を進めていき、成功と栄光を煌びやかに、そして陰の部分も悪趣味に夫の暴力行為として挿入する。今作の時限爆弾的に仕込まれている、「ナンシー・ケリガン襲撃事件」へと止めることのできない確定運命を歩んでいく。事件の準備から発生、そして転落に至るまでの、絶望的なまでに愚者しかいない不条理な空間の居心地の悪さは見事なエッセンスとなっている。特にボディーガードと名乗る誇大妄想壁の男の末路にはため息もでない・・・。

中盤クライマックスとなるトーニャ・ハーディングのトリプルアクセルを成功させた演技のパワフルで高揚感あるその瞬間からの落下の位置エネルギーは、マーティン・スコセッシの「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の帰らぬ日々のアウトローな青春を女主人公に変えて解きな放たれたとうに思えた。

「ワンダーウーマン」「トゥーム・レイダー:ファーストミッション」「キャプテン・マーベル」と女性ヒーローがフィーチャーされる昨今にて、女性の疑似的なアウトロー青春モノの走りのような感覚を、ラストのスケート界を去ったトーニャの姿に見てしまった。