真田ピロシキ

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.4
酷い惨すぎる。ブラックコメディ?どこがコメディなんだよ。貧困と無教養が才能と努力による可能性をも無慈悲に打ち砕く。これをコメディとして消費できる人は下流を他人事として受け止められる余裕があるんじゃないかな。自己責任論の刃を軽々しく振りかざしていないですか。生まれと環境は本人にはどうにも出来ないし影響からは幸運なしでは逃れられないんだよ。正しい判断が出来るのも教育を受けてこそ。中卒でスケートだけをやらされていたトーニャに求めるのは酷。高校野球なんかでよく不祥事が起きるの。あれと同じでスポーツしかできない馬鹿を生産するような指導は悲劇である。そういう視点で鑑みるとスポ根ものは大抵アウト。スラムダンクとか。意地が悪いことに初めてトリプルアクセルを決めるシーンやロッキー風練習シーンなどスポ根として高揚感を味わえる瞬間が時々ある。成功さえしていれば感動作。

貧困層のトーニャは古い理想化された女を求めるスケート委員会には気にいられず、言動は仕方ないにしても型破りな衣装や選曲もマイナスとなる。どっかの国の品位品位とうるさい癖に外国人排斥と性差別が大好きな国技みたいだね。その身体能力を別の競技に向けられていれば或いは。と言っても決定権が毒親にあったので意味のない仮定。全てが残酷。


毒親は紛れもなくクソだけれど頭はそんなに悪くはなさそうなのでまだマシな方。初めて付き合って金の心配せずスケートに専念するため結婚した夫のバカさ加減と言ったらもう。その夫の友達であるデブがバカと言うよりは治療が必要な類。誇大妄想狂のデブが雇った男達も推して知るべしで止まらない負の大連鎖。トーニャも一旦は縁を切ろうとするものの、理想のアメリカ家族像とやらを求めるスケート協会に応えるためにヨリを戻さざるを得ない。何なんですこの地獄は。そうして転落した有名人はマスコミと大衆に格好の笑いものとして消費され、そこを映画は見逃さず指摘する。そして自分も思い当たる。数年前の小保方や佐村河内に。みーんな分かりやすい悪者が好きなのだ。

完全にトーニャの視点で感想を書いているが、映画は関係者各人が好き勝手に真実を述べている体で本当のところは分からない。これが中立であろうとしているかと言うとそうじゃないと思う。トーニャ主観のみで語ると本当に可哀想すぎてとても見れない。今ですら映画のせいかは分からないが胃が痛い。観客の心の負担を減らすためにせめて半歩くらい引いたのではないだろうか。ポップな演出でブラックコメディを装っているのも配慮なのかもしれない。

主演はマーゴット・ロビー。某ハーレイクインや近い時期にやっていた映画のせいでもしかして『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の一発屋なんじゃと思いかけていたが、自ら製作に名を連ねた本作で払拭してくれた。刺激的で挑発的。ハーレイもこんな風だったらなあ。悪い男に引っかかるのも共通してるし。ティーンエイジャーには流石に見えなかったが、23歳の割に心労で老け込んだ姿は元々年齢以上に見えていたマーゴットにハマっている。実際にスケートシーンも演じたそうでどこまでやっていたのか気になるところ。バカ夫はとてもキャプテンアメリカの相棒にはなれそうにないセバスチャン・スタン。全然結びつかなくて「見覚えのある顔だけど誰だったっけ?」となってた。毒親アリソン・ジャニーやデブはエンディングでの本人映像を見るとそっくりでよくこんな嫌な人間を演じる気になったものだと尊敬の念を抱かせる。でもこんなリアルな下流を演じてくれなくても良かったよ!リアリティ豊かすぎるのも考えもの。