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アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルのKKMXのレビュー・感想・評価

3.8
映画評論家・町山智浩氏と同じ感想になってしまいましたが、本当に『全員死刑』とそっくりでした。ジャンルを作るならば、実録底辺コメディとでも言えそうです。

まぁ、とにかく登場人物がコーチ除き全員クズ。クズたちがクズな事件を起こし、自業自得に破滅するという姿をギャグとして描いているのだな、と思いました。
例えば、子ども時代のトーニャは当然虐待されているのですが、その描写のトーンは明るく、ホワイトトラッシーなロックのBGMと相まって、深刻さを薄めています。背後にあるシリアスさを強調するよりも、問題を抱えた人々が起こす結果のバカバカしさに焦点を当てているように感じました。
だからと言って、背後にある貧困・教育レスの問題がかき消えるわけではなく、ギャグっぽくすることで多面的になっているように思えます。個人的には、シリアスに『社会問題でござい』と迫る映画よりも考えされされました。『全員死刑』もそうでしたが、クズな人々に悲しみを感じます。クズな人間になるにはみな理由があるわけですから。

暴力でしかコミュニケートできないこと(傷つけてハッと我に返るところを見ると本当は相手を傷つけたくないのだ)、安からな愛情を受けたことがないから攻撃したり支配したりしかできないこと、人生ドン詰まって能力もないから妄想に頼るしかないことetc…登場人物たちはみな可笑しくも悲しいです。

中でも強烈なインパクトを残したのは、毒親ラヴィナと妄想デブ男ショーン。あまりにキャラが立ち過ぎているので、過剰に表現しているのかと思いきや、エンディングの本人映像を見るとむしろ本物の方がヤバく、事実は小説よりも奇なりを地で行く展開に仰天。鑑賞後に調べたらショーンはすでに故人でした(確か、劇中インタビューでもショーンだけは過去映像の演出だった)。でもあそこまで壊れていると健康面とかも維持できなそうだし、妙に納得してしまった。
ショーン家はお母さんが少し足りないながらも優しい感じだったので、彼には最も切なさを感じてしまったなぁ。彼は知的な遅れとか先天的な障害とかがあったのかもしれない、なんて想像しています。
(あの特異な風貌から、脳の障害があったのではないか。ああいう短躯・肥満で虚言・妄想癖のある脳の先天的な障害があったと思うが名称忘れてしまった)

とはいえ、俳優陣の好演が光る映画でもありました(あんなヤバヤバな連中を演じる訳だから、いつも以上に気合い入れる必要があったんだろうなと想像)。
マーゴット・ロビーは下品さを醸し出して美人感を封印できていたように思います。トーニャはヤング神取忍にしか見えなかった。フィギュアの演技も凄まじく、相当練習したんだろうな、と感動。説得力がハンパなかったです。DV男を演じるには、セバスチャン・スタンは目が優しすぎたと思います。惜しい。
多面的な真実を伝える藪の中演出も良かったです。DVの話とかも、双方の視点があるからこそ浮かび上がる新しい真実もあるのかな、と感じました。

エンドロールでトーニャは子どもを産み育てているとのこと。正直、けっこう心配です。虐待していなければいいけどね…
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