マクガフィン

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルのマクガフィンのレビュー・感想・評価

4.0
トーニャとDV夫の食い違う証言を基にしたモキュメンタリー的な構成で、トーニャの半生と事件までの経緯とその背景が描かれる。

貧困から脱出するために、娘を幼少の頃から全てをフィギュアスケートに縛り付けた、DVを含む冷徹な毒母。女性蔑視でDVを含むエゴイスチックな偏屈愛の元夫。平気でバレる嘘をつく病的な虚言癖のあるDV夫の友人。思考がストップしているかのような他罰的思考で悪女なヒロインのトーニャ。主要な全キャラが自己中心的でゲスで、特徴が凄すぎて興味が尽きなく、陳腐な事件の妙な説得力に繋がる。

特に母親は、女悪役が弱いスター・ウォーズやMCUやDCコミックスにそのままで登場できるような強烈なキャラで凄味がある。人間味が欠落した正気が感じられない模様は、超大国アメリカならではの歪みのようにも。
母親はトーニャが虐げられり追い詰められた方が力を発揮する思い込みは、無教養で無知な故の考えだが、その全てが間違っていないことは、人格形成の段階で既にトラウマレベルを意味するのでは。
また、プアホワイトと女性蔑視の社会問題的な影響も大きく、母親と元夫に対するアンビバレンスな思いは考えさせられるが、DV夫と寄りを戻したりと、母親譲りの勝ち気で歯止めが効かない屈折した性格は事件に繋がるので簡単には同情できない。

海底の砂地で生息して、泥にまみれながら足を引っ張り合う貧困スパイラルは一見、シリアスで陰湿な作品になりがちだが、ハイテンションでPOPな語り口の中にコミカルを挟んでテンポが良いのでエンタメ作品としても抜群に面白い。
事件後にFBIが迫ってきて、各々が保身のために、共食いし合うような刹那的な関係に変わる薄情さも可笑しい。

トーニャの演技はジャンプは良いが芸術点が低いので点数が伸び悩むが、それでもトリプルアクセスに拘る模様は、浅田真央や安藤美姫や羽生結弦にも通じて唯一の好感に。ジャンプの点数の割合が低い疑問は同感。
唯一のアイデンティティである、フィギュアスケート人生が絶たれ時の叫びは流石に悲しいが、それでも図太く生きるバイタリティは凄まじい。

実話系にありがちなエンドロールの本人登場で初めて笑えた。冗談のようなエピソードが本当にあり、以外にも誇張が少なめで作品に説得力を加える。

勉強の大切さや、生まれ育った環境や人間関係の大事さを再認識する。
自己中心的・保身的・一側性で、人間のエゴが充満する証言は羅生門効果の矛盾とマッチするようで興味深く、人間の業について考えさせられる。