潮騒ちゃん

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルの潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

3.8
「そういう星の下に生まれた人間」、もっと言うなら「そういう星の下でしか生きられない人間」は、間違いなく存在すると思う。トーニャ・ハーディングはまさにそういう人だ。壊れかけの洗濯機でガッコンガッコン回されながら育ったような女。暴力と罵声にまみれ、人間関係も環境も悲惨を極めている。そらぁ淑女にはなれまい。穏やかさなど身に付くまい。けれどトーニャは世界一になれる自分を知っていた。泣いている暇はない。歯が折れても食らいつかなくては。図太く鼻息の荒いトーニャのガッツに思わず仰け反る。なんという反骨…。彼女のスケート人生の道を開いた母親もまた、笑ってしまうほどに強烈だった。演じるアリソン・ジャネイが超絶低温の佇まいで観客全員をビビらせにかかる。彼女の動かない能面に娘への愛情を探すのは難しいかもしれない。けれど「その他大勢にしてなるものか」という重量級の信念に嘘はない。母自身もきっと、トーニャと同じようにボコられ人生を辿ってきた人なのだろう。外道なスパルタは娘のためか。自分のためか。愛のためか。真相は分からずともそのヘビーな執念、アッパレです。美しさをかなぐり捨てたマーゴット・ロビーがスケート靴を武器に迫りくる。悲しみも孤独も握りつぶして、ふてぶてしく笑う。最後の最後までトーニャを好きになることはなかった。これはクソビッチの負け犬映画。こんなにも堂々と中指を立てられちゃあ、降参するしかないってもんよ。
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