《ウェスアンダーソンの一人スタジオライカが構想した全く新しいストップモーションアニメ》
ウェスアンダーソン映画では何故か、犬や猫は死なないという世界映倫の暗黙の了解を治外法権みたいに破りまくり、しかも犬死にをギャグで魅せつけていた行為に落とし前をつけるが如く犬側の倫理観に寄り添った作品を創った。
海外の人が思う日本のパブリックイメージにウェス独自のデザイナー精神を炸裂させ思い浮かべたこの世のどこにもない日本世界観。それを不屈のアニメーションスタッフ協力の下具現化した『犬ヶ島』はストップモーションアニメのとんでもない極地であった。
前に撮っていた『ファンタスティック Mr.FOX』のチャーミングな世界観も凄まじかったが、あえて苦言を一つ呈するならサイズ感までは制御できなかったか、超巨大な模型を覗き見てる印象はあった。(それ自体が作品のチャーミングさを底上げしてたが)
しかし、今回はそんなレベルの話ではない。もう"ストップモーションアニメ"を忘れさせる様な、何がどうなってんだか分かんない勢いで活き活きとした世界がそこにあったのだ。ティムバートン方式にスタジオ一個建設できるんじゃないかってレベルの真新しい手法と完璧主義にまず感動を覚えた。
更に脳みそ一つと目ん玉二つじゃとても情報処理が間に合わない画面情報であるためリピート鑑賞必須だ。これは日本人には特に言えることで、日本語がディテールの隅から隅まで溶け潜みそれ自体が情報として叩き込まれる。それも見えるか見えないかの小ちゃさが動きまくる画面に放り込まれており、神は細部に宿りイズムでマニアックな日本要素もてんこ盛りとなっている。
さて、そんな本作では戦後の日本を着想した様な近未来の世界、新規制の法案により流刑された愛犬を探すため、少年は"犬ヶ島"に不時着し現地の犬たちと探索をする。
犬ヶ島での展開は『ニューヨーク1997』型隔離島ディストピアが広がっており、野蛮族的に荒廃した文化や建築物の修羅場を潜り抜けてゆく。今回はウェスアンダーソンのリズム重視なストーリーテリングが臨界点に達していることもあり、ここではテクニカルなカメラと連動した疾走感が物語以上に観客を楽しませる。分けてもロープウェイや下水道の激流といった機械的な運動の面白さを追求したライド感は白眉と言えよう。
その隔離島の活劇に唐突に3年前とかカットインするエピソードから移民問題をねじ込んだお上の政治劇に複雑に枝分かれするシナリオにこそ考察の豊かさが内包されています。
また、ウェスアンダーソンは前からアクションを割りかし雰囲気で見せがちな印象だったが、今回は一つ打開策を発見したっぽくストップモーションアニメならではのキビキビした動きにカメラワークを連動させ、被写体の空間移動を省略する癖があるのだ。
走ってく被写体、それを追い抜くカメラの移動、するとその先ですでに先回りしている被写体、しかもカメラ目線というギャグこれを途切れない流れで魅せることでアクション自体雰囲気でも躍動感が生まれます。
もっといえば、アクション場面でなくてもリズム重視なスピーディーさが画面の動きとの連動で全編がアクションの心地良さと同等に感じ取れるのだ。
これには本当に舌を巻いた、ストップモーションアニメ媒体にしかなし得ない原初的快楽を最大限増幅させた運動の数々、しかもスプリットスクリーンやらワイプ、挙句手描きアニメーションの手数まで介入させ、神を細部に宿らせたセンスオブワンダーに魅了されっぱなしだった。
また、リズム語り口から巧妙に演出したリズムを外す様なオフビートギャグが見事にメリハリをつけていることも秀逸。
そしてオッサンとティーンの年の差友情を育んできたウェスアンダーソンの作風を動物と人間の関係性に当てはめると服従関係が逆転し、可愛さ満点のエモーショナルが生まれるのだ。
時折り、映画ファンの間ではワンちゃんニャンちゃん映画というジャンルが癒し効果になっているが、全くピンとこなかった僕でさえ胸を鷲掴みにされた。
ヤクザみたいな野良犬に「ビスケット」と差し出し、「これはお前の飼い犬の物だろ、取っておけよ、、、でも食ってみるか」「ありがとう、旨いもんランキング更新したよ」と愛情を注ぐ少年。
そこにウェスの絶妙選曲が2人を見守る様に友情を育ませる。もうキュン死ですよ、キュン死。
チャーミング要因までも更に更新させてた本作は何気なくスナウト病の影響で定期的にクシャミしたりと萌えには抜かりなかった映画なのだ。
そんなこんななウェスアンダーソンの手数がとにかく大量で、作業場面を真上から捉えたマニフェストとか手術シーンとかがデスクワーク的ショットで紡がれる面白さやまだまだ言い足りないが文字だと疲れるんで諦めます。
とにかく神がかりなDIY精神とヌルッヌルのコマ撮りに恍惚興奮幸福なひとときを得た。
観終わるとペットが飼いたくなったし、ソイツと犬ヶ島ごっこをやりたくなりました。
