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犬ヶ島のdm10foreverのレビュー・感想・評価

犬ヶ島(2018年製作の映画)
4.1
【カオス】

恥ずかしながら、ウェス・アンダーソン監督作品を殆ど観たことがないので、彼の作家性について語ることは出来ないし「これぞ、ウェス・アンダーソン!」という感想を持つこともない。
ただ、単純に観たままの感想しかないので、勘違い等がありましたらご容赦を。

この映画は「日本を舞台に連れ去られた愛犬を探す少年の冒険」という物語をストップモーションアニメという技法で作られた作品。
舞台は一応「20年後の日本」とはなっているが、その描き方自体は近未来的なのか、はたまた過去の日本なのか、あるいは別次元のパラレルワールドなのか・・・実はそのどれでもなく「客観的に見た日本のカオスな雰囲気をディフォルメした表現」というのが適当なのかもしれない。雰囲気は「CASSHERN」や「TAMARA2010」のような独特な世界観。最初にある種の既視感を感じたのはそのせいか?

ストーリー自体はそれ程特筆すべき内容ではないが、何と言ってもその独創的な世界観と、何故だか懐かしさを感じるフィギュアの造形から目が離せない。
特に犬たちの表現は見事。単に愛くるしいとかそんな簡単な表現では留まらず、「イヌ」をディフォルメしながらも、細部にわたって作り込まれている感が随所に感じられた。
犬を飼っている方なら「あるある」と頬が緩んでしまうようなちょっとした仕草が忠実に表現されていて、それがストーリーの展開と相まってアタリとスポッツの友情に胸が熱くなる。
アタリがゴミ島(犬が島)での冒険を通して出会った犬たちのどれもが魅力的で、ディズニーによくある「擬人化」とは一線を画した「イヌとしての魅力」が最大限に表現されている点は上手いと感じた。

小林市長の反犬政策は「理解しえないもの」「強者と弱者」という構図のメタファーとかそんなものでもなく、ある陰謀の片棒を担がされただけだったが、当の小林市長の描き方(人と成り)も興味深い存在だった。
絵に描いたような悪役なら剛腕を振って敵対勢力を力づくでも排除しそうなものだが、彼は口癖のように「リスペクト(尊重)」と言って、敵対勢力にも反論の機会を与える。しかしそれは表向きの「公平」であり、本質的な部分は「絶対的な権力に対する自信」の裏返しでもあった。
実はこの悪役の描き方こそあまりフィーチャーされていないが「いやらしい強かさ」を感じる表現であり、だからこそ「イヌ擁護派」への感情移入がしやすかった。
先にも書いたが物語としては、それほど「目の覚めるようなどんでん返し」が用意されているわけでもないのに、最後まで何故か目を離せない不思議な映像。そしてアタリとスポッツの友情と成長。
単に「もう一回観たい」という感想ではなく、何年かたってからもまた観たい、色んな年代になってもまた観たいと思えたという事は、自分にとって傑作の部類に入ったのかもしれない。

それくらいトリップにも似た不思議な感覚だった。これがウェス・アンダーソンですか。
ちょっと過去作にも手を出してみようかな・・・。
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