ミヤザキタケル

犬ヶ島のミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

犬ヶ島(2018年製作の映画)
2.9
犬ヶ島
第68回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作。

今から20年後の日本
犬インフルエンザが蔓延するメガ崎市では、人間への感染を恐れた市長が犬達をゴミ廃棄場である“犬ヶ島”へと追放・隔離することを宣言。
事故で両親を亡くし遠縁であった市長に養子として引き取られた12歳の少年 小林アタリ(コーユー・ランキン)は、犬ヶ島へ連れて行かれた愛犬 スポッツ(リーブ・シュレイバー)を探し出すためにたった一人で島へと向かう。
野良犬のチーフ(ブライアン・クランストン)と元ペットである4匹の犬達の協力を得て捜索を続ける中、メガ崎市では市長の陰謀を嗅ぎつけたメガ崎高校新聞部が独自の調査を始めていた。
愛犬を探す少年と犬達の冒険を通し、言葉が無くとも心で理解し合える人の可能性を描いた作品だ。

2009年製作の『ファンタスティック Mr. Fox』に続き、再びストップモーションアニメを手掛けたウェス・アンダーソン
それも、日本愛・黒澤明愛などが存分に注がれ、近未来設定ながらもどこか古風で懐かしさが漂う世界観
外国映画にありがちなトンデモ日本描写も殆ど無く、ぼくら日本人が観ても違和感を感じないレベル
そんなところからも、ウェス・アンダーソンの本気度が、日本に対するリスペクトが伝わってくる作品であった。

序盤、人によっては混乱するかもしれない
正直、ぼくは混乱した
字幕版で観たのだが、スクリーンに表示されている日本語が字幕だから表示されているのか元から表示されているものなのか分からない時があった
その上、表示される情報量も極めて多く、ウェス・アンダーソン作品独特のテンポ感も相まって慣れるまでに時間がかかる
それさえ乗り切れば、後は少年と犬達の冒険を、大人達の不正を、勧善懲悪的な物語をシンプルに楽しむことができるだろう

だが、見落としてはならない点が1つだけある
まるで人間と犬が自然に会話しているかのように見える今作だが、互いに言葉を理解していたわけじゃない
通じていないということを示すシーンは数回明確に描かれていたが、序盤の混乱状態から脱し切れていなければしっかり心に刺さらぬまま物語を追ってしまう
言葉が通じ合っていると思ったままでも、楽しめてしまうのは事実
けれど、互いに発している言葉を理解せぬままあの展開に至るからこそ価値がある
ファンタジー描写も多くこちらで多くを汲み取る必要もあるが、描いていたのは今を生きるぼくらにも大いに関係のあることだった。

子ども時代
絶対とは言わないが、相手の見てくれや親の職業や住んでいる家を理由に友達付き合いするか否かを決めてはいなかった
基本的には誰とでも分け隔て無く遊ぶことができていた
泣いている人がいれば声をかけて慰めていた
大人になった今はどうだろう
容姿・職業・収入・家族構成・交友関係・宗教・性癖etc…、相手の心に触れるより先に知っておかなければならないことがたくさんある
一緒にサッカーやゲームをしただけでは、帰り道が同じになっただけではせいぜい知り合い止まり
そうカンタンに他人を受け入れることも信じることもできやしない

ある犬が12歳位の子どもが1番好ましいと言っていたが、それなりの謙虚さと子ども時代にしか持ち合わせない感覚を同時に有している希少な時期であるからなのだと思う
とは言え、犬を含めた動物達は人間を見てくれや収入で判断しない
いつだって側にいてくれる
愛情を注げば注いだ分だけ、ぼく達人間のことを愛してくれる
裏切ることがあるとすれば、それはいつだって人間の方
自分達の都合ばかりを押し付けて、彼らを苦しめる
ファッション感覚でペットを飼うバカがいるから、殺処分される動物達が後を絶たない。

私利私欲に囚われて、相手の心を見ようとしない大人達
上辺の言葉に踊らされて、物事の本質を見極められない大人達
不正がまかり通っていることに気が付きながらも、正せるだけの力を持たない子ども達
言葉が通じずとも、人間の味方となり寄り添ってくれる犬達
言葉が通じないことを良いことに、動物達に理不尽を強いる人間達

本当に大切にすべきことは何だろう
本当に向き合うべきことは何だろう
SNSの相互フォローなんかより、握手した時に伝わる互いの手の温もりを感じ取ることの方がよっぽど大切な気がする
胡散臭い記者会見を開いて事をややこしくするより、当人同士で集まって本音をブツけ合った方がもう少しマシな結果になると思う
もっとシンプルに物事を捉えられれば、かつてのように人と関わることができたのなら、ぼくらの世界はもうちょっとマシになる
そんなの無理だと思えてしまうが、可能性は0では無いことをこの作品は示してくれる。

黒澤明作品を熟知していた方がより多くを楽しめるかもしれませんが、知らなくても問題ありません
序盤の混乱対策と人間と犬の言葉が通じ合っていないことさえ認識できていれば、しっかり噛み締められる作品です
ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★
ファンタジー★★★
総合評価:C