たなかじろうまる

犬ヶ島のたなかじろうまるのレビュー・感想・評価

犬ヶ島(2018年製作の映画)
5.0
どう在るべきか。

すごい映画に出会った。
こう、一言に素晴らしいと断じ、何も考えずにレビューを終えてしまうと勿体無く、行き過ぎた考察もまた、作品の持つ感動を無為にしているようでならない。なんとも考えさせられる映画だった。

少年アタリの旅路をチーフという野良犬を交えて、独特なタッチで展開される。初見の際に最も先に想起されたのは、映画ではないがMr.Childrenの楽曲の『HERO』のMVだ。これも同様にストップモーションアニメーションであり、それ以上に通常の演出に固執されず、意表を突いた描写の再現を心がけている。
自身、そのMVが特に好きなのもあって、強く心を打たれた。

この映画は何というか、ジャンル決めに困る。
少年アタリが飼い犬スポッツを探すファンタジー的な捉え方が出来るのはもちろんのこと、アタリに影響を受けた多くの子供たちが偏った思想に洗脳された大人に反抗する成長譚を主軸に置いたものとも感じられる。
あるいは野良犬で、1度だけの飼われ経験のみしか知らないチーフがアタリに対し心を開いていく過程はもしかしたら一種のラブストーリーとも考えられるのだ。
そんな、いくつもの想像を掻き立てられる作品は素直にすごいと思うし、鑑賞中も感心させられてばかりだった。

また、嬉しいのは監督が本当に日本をよくわかっている、ということだ。例えば、寿司を作るシーンなどが特に凄い。
ウェス・アンダーソン監督曰く、観てるだけで手を伸ばしたくなるような料理を日本人に対し、見せつけてやりたいと語っていた。その意気込みは決して過言ではなく、絞められる魚は実写さながらに思えるし、完成品も毒入りであるというのに口に運びたくなる完成度だった。
それ以外にも魅力が山盛りだ。
一見するとエセ日本にも見えかねないが、芯の部分は実際と寸分違わない街並みや人物像は、純粋に監督の愛を感じられた。

これに関しては意見が分かれるが、吹き替えでよかったと思う。
吹き替えだと、ニュースの多国語音声の時のみ、オリジナル版の英語になる。今作は特に、台詞の最中の他人の会話も聞こえるように作られているから、日本語と英語が意図的に入り乱れるようになり、作品の独特な世界観の形成に一役買っていたと僕は確信してる。

久し振りにすごい映画を見たと思う。
同時に、監督の他作品にも非常に興味が湧いてきた。