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犬ヶ島のohassyのレビュー・感想・評価

犬ヶ島(2018年製作の映画)
3.5
「イヌはいいぞ〜」


ずっと思っていることだけれど、ウェス・アンダーソンは果たして映画監督なのだろうか?
もちろん映画を監督しているのだから映画監督ではあるけど、この人はあまりにもアーティストだ。
そしてアーティストなのにただの自己満足でなく、スタッフやキャストをがっちり引き寄せる人徳があって、分かりやすい魅力もしっかり担保する。
しかも結構イケメン。
何者だよ。

全編ストップモーションアニメの本作は、兎にも角にも可愛さでできている。
実写のように人海戦術が効かないため非常に手間がかかるので、どうしても単調な画面になってしまうし、ウェスアンダーソンの作品はどれもおとぎ話のような世界観なので、どうしても誘うための説明が必要になる。
今回で言えば「ブレイキング・バッド」のブライアン・クランストン演じる黒ノラ・チーフの語りがそれで、声はすっごくよくて気持ちよく響くのだけど、さすがにどうしても冗長感は出てしまう(もちろん作りのディテールに注目すれば目を見張るカットばかりで、真俯瞰から捉えた寿司職人の一連のシーンなどは怖いくらいの出来)。

でも、それを補って余りある作りこみとデザイン、そしていちいち可愛さが刺激してくるのがこの人。
冒頭だけ乗り切れば、あとはずっと浸っていられる。
これまでの作品全てに通じているこの比類なき可愛らしさは、本当に誰も真似ができない。
過去の作品を観ればわかる通り、彼にかかればどんなおっさんでもたちまち可愛くなってしまうのだ。
今回は犬だけれど、声はだいたいおっさんで、めちゃくちゃ豪華キャストで、その声も含めた可愛さを作り上げていた。
リーヴ"セイバートゥース"シュレイバー演じるスポッツも、本当に気持ちの良い声だった。

日本が舞台になっているというのは個人的には余り興味はないけれど、外国人の描く日本というのはいつ見ても面白いし、日本人には出せない世界観だなあと思う。
本作は近未来の、ユートピアともディストピアとも取れない独特な雰囲気で、様々なメッセージと愛が込められてた。
きっと、我々が外国のイメージを思い描くのと同様に、過去から現代までを一緒くたに捉え、現実も作り物も、ホントも嘘も、鋭い視点も勘違いも凝縮した形でアウトプットされているからなんだろう。
日本が舞台の映画が、もっともっと増えてほしい。

5年前に犬を飼い始めて、すっかり犬好きになった。
どんな動物でもそうだと思うけれど、犬も飼ってみて初めてわかる可愛さというものがある。
それは細かくて具体的なものの集合体のようなものなので、言葉で表すのはなかなか難しいけれど、本作でかなり正確に表現されていたように思う。
そうなんだよな、犬って。
犬はいいぞ。

ところで英語と日本語が入り乱れるのは、日本人だけが楽しめる特権だなと思っていたけれど、慣れていないせいか案外戸惑いますね。
しっかり意識しないとセリフを取りこぼしてしまいそうでちょっと大変でした。

さあ、過去作を観直しだ。
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