ケーティー

犬ヶ島のケーティーのレビュー・感想・評価

犬ヶ島(2018年製作の映画)
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普遍的なテーマを下地にしつつも、観る人の想像力でいくらでも解釈しようがある余地のある不思議な作品。


特定のコミュニティの隔離や差別というテーマ設定自体は普遍的だし、実際ストーリーも骨格は単純で、ズートピアなどと通じるものもある。
しかし、本作の不思議なところは観る人によって解釈が異なる想像の余地が残されていることだ。現在の政治体制への批判や民主主義のあるべき姿を考える作品ととる人もいれば、世界的なテロとの対立を想起する人もいる。とことんこだわった美術は、極めてディテールに凝っているが、それが単純に作品の世界=日本にとどめない発想をさせざるえない、見ていてそれぞれが何かを考えざるえない不思議な魅力を持っているのである。

※以下は、ネタバレになりうる記述を含みます。






さて、作品を観て私が一番謎だったのは、ラストの小林市長の決断だった。なぜ急に人が変わったのか。私は有権者へのアピールのため動いたのかと思っていた。しかし、本作を先に観た弟に、これは結局小林市長が悪い人ではないと見せたかったのではないかと言われ考えさせられた。思えば、本作は言わば無血革命を成し遂げるわけである。犠牲は出るものの、大挙した犬たちが街をめちゃくちゃにしたりしない。実は、ここに監督の日本への愛があるのではないか。明治維新も、結局戊辰戦争で犠牲者が出るものの、肝心の政権交代(大政奉還)自体は無血開城であった。時として、政府に躍らされ騙されるも、根本には優しさをもつその市民たちの描写こそ、日本人のよさともとれ、そこに監督の日本への愛を感じた。