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バッカス・レディのSPNminacoのレビュー・感想・評価

バッカス・レディ(2016年製作の映画)
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祝オスカー受賞のユン・ヨジョンが演じるのは「バッカス・レディ」と呼ばれる高齢セックス・ワーカー、ソヨン。といっても、これも安定のユン・ヨジョン劇場だ。仕事道具を抱えてエッチラオッチラ歩く後ろ姿が飄々としたペーソスを醸し出す。
高齢者なので客を引くのも真昼間。当然様々なリスクはあり、そもそも高齢者の貧困という社会問題がある。その「仕事」ぶりは淡々と即物的だ。それでも客との間には老いた者同士の共感が生じ、やがてソヨンは別の仕事も請け負わざるを得なくなる。
母とはぐれた子供を躊躇なく預かったり、かつての客を見舞ったり、困っている人を見捨てられない優しさが招いたのか。それを頼る男たちの利己的な甘えなのか。社会の皺寄せはいつも弱い立場の人に来る。最後まで男の面倒を見る(羽目になる)のは女。だが誰かが引き受けなければならない、それが罪深い母親の因果とでも言うように、商売ではない仕事を断れないソヨン。
日頃コミュニティへの関わりがなさすぎる爺さんたちは孤独だが、多国籍な住民が身を寄せ合う街の片隅で、彼女の周りは他人同士がゆるい家族を形成してる。独りで死ぬのは虚しいと言う男と、虚を見つめるソヨン。彼女自身の自尊心を、誰が助けてくれるというのだろう。男の事情を引き受けてきたソヨンは最後まで自分の面倒を淡々と引き受けていく。その場所は女しかいない。
人生の不条理を体現しながらドラマティックな演出や音楽を極力排し、決して湿っぽくはしない幕切れ。ソヨンが聖女でも天使でも特別タフでもない、でも寓話的バランスになったのは、やはりユン・ヨジョンだからだろう。ジュリエッタ・マシーナを彷彿した。
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