YasujiOshiba

ダークレインのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ダークレイン(2015年製作の映画)
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メキシカンホラー。原題は Los Parecidos (似た者たち)。英語は The Similars ってことだけど、なるほどこの題名ではほとんどネタバレに近い。

このホラーの怖さは、ある種の気持ち悪さにあるのだけれど、その気持ち悪さは、ぼくらのアイデンティティを揺るがすところからくる気持ち悪さ。それは、たとえばぼくらがアリの群れを踏みつけるときや、毎晩出てくるゴキブリをスリッパでピシャリとやるときの、ある種の特権的な立ち位置を突き崩し、実のところ、ぼくらの一人一人が、踏みつけたりピシャリと潰したりするものと変わらない存在に見える可能性を暴きたてる。

そうなんだよな。実際、iPhone の最新版では人間の顔を個別認証の標識にする技術が実装されているけれど、技術がよくよく進めば、アリもゴキブリも個体の認識が可能なはずで、そこには個性が見いだせるはずなのだ。そのとき、もはやぼくらは彼らのように、彼らはぼくらのように個性的な存在となり、あの動物と人間を区別し続けてきた人類学的機械が、悲鳴をあげながら空回りを始めるというわけだ。

その悲鳴を誘発する少年がイグナシオ。その名の通り「火(ignis)」を起こして、人を守ってきた境界線を焼き払う存在ということなのか。この少年を演じたサンチャゴ・トッレスの笑い顔がなんともいえず不気味でよい。
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